【空気感染と飛沫感染】
空気感染を文字通り理解すると、『空気から感染する』という意味です。教科書にある空気感染するウイルス及び菌は、麻疹ウイルス、水痘ウイルス、結核菌です。
▼空気感染
空気感染では感染源が長時間空気中にただようのが特徴です。発病した人と同室にいただけで感染する可能性があり、空調機を通じて感染する可能性もあります。特に省エネ型の空調機は、吸入口から取り込んだ空気を外気と混合して吹き出します。空調機の配管によっては、ある階、場合によっては、ある区画、建物全体を病原体が汚染する事が可能です。
▼飛沫感染
空気感染と似ているものに、飛沫感染があります。飛沫の場合は例えば咳やくしゃみをした場合に、病原体が飛びます。飛ぶ距離は2m以内なので、同室にいるだけでは感染しません。また、空調機を通じた感染は起きません。代表的なものは、呼吸器感染を起こすインフルエンザウイルスや鼻風邪ウイルスです。
【重症急性呼吸器症候群の原因はSARSウイルス】(2003/04/24加筆)
重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome;SARS)は呼吸器系の感染から重症肺炎を起こします。原因としては、コロナウイルスの新種と断定されました。この新種のウイルスはSARSウイルスと命名されました。
コロナウイルスは哺乳類と鳥類に感染します。コロナウイルスの基準となるのはニワトリに感染するウイルスです。人では、風邪の数10%はコロナウイルスが原因です。家畜では、犬、ネコ、豚、牛、ウサギに病気を起こすので獣医学の領域では重要なウイルスです。今回のSARSウイルスは、従来報告されているどのコロナウイルスとも似ていないまったく新しいウイルスです。
感染症の病原体は下記のコッホの三原則を満たさないといけません。
1 特定の病気について常に特定の病原体がみつかる。
2 その病原体を体外で純粋培養できる。
3 その病原体の健康体への接種後に発病する。
オランダでの猿への感染実験で3の条件を確認できたので、SARSウイルスはコッホの三原則を満たしています。
【空気感染だと飛行機が危ない!】(2003/04/24加筆)
今回のSARS(重症急性呼吸器症候群)ですが、患者を診察、または看護した医療関係者が次々に発病した事から、空気感染の可能性があります。また、一つの建物で100名以上が発病した事も空気感染を強く考えさせます。
現時点でWHO(世界保健機構)もCDC(米国疾病対策センター)も空気感染の可能性について否定していません。
例えば空気感染の代表的なウイルスの麻疹では、発疹が出る前の潜伏期間でも感染性があります。もしSARS(重症急性呼吸器症候群)が無症状の時点で感染性があった場合は、航空機の中で次のような事が起きます。
香港からの報告では、発熱などの症状がない時点でのSARSの感染性を示唆するものがあります。
発病した人は搭乗前にある程度見つける事ができたとしても、潜伏期の人が飛行機に搭乗してしまうと、空調を通じて、飛行機の一機分の人が感染する可能性があります。 |
現時点では、流行地域に旅行しないという消極的な対策しかありません。24時間で世界を一周できる今は、空気感染する感染症は爆発的に広がる可能性があります。
【SARSが新感染症に!】(2003/04/09加筆)
厚生労働省はSARSを新感染症の第一号として認定しました。新感染症は、エボラ出血熱などと同等に扱う事が法律で定められています。現在、この指定を受けている施設は12都道府県で24床しかありません。
指定施設のない残りの都道府県では対応に苦慮しています。
【陽圧室と陰圧室】(2003/04/12加筆)
陽圧室は、病室の圧力が外より高く(陽圧に)なっています。外からの病原菌の侵入を防止します。手術室、集中治療室、無菌室などがこの陽圧室です。病室内をフィルターを通した空気で加圧します。
陰圧室は、病室の圧力が外より低く(陰圧に)なっています。室内から病原体が外に出るのを防止します。病室内の空気をフィルターを通じて外気に放出します。
SARSでは、この陰圧室の病室が必要です。
【SARSは指定感染症になります】(2003/04/17加筆)
SARS は病原体が特定できたので新感染症から指定感染症に変更になります。政令が必要なので実際の指定まではしばらく時間がかかります。
【N95マスクは長時間装着できません!】(2003/04/24加筆)
SARSの予防法にN95マスクが登場します。N95の95はCDCのガイドラインに適合していて、『0.3μ以上の空気中の微粒子を95%以上阻止できる』という意味です。N95マスクは、本来は結核患者を診察する時に使用するマスクです。
微粒子を95%以上阻止するには、顔の大きさに合わせたマスクをきっちり装着しなくてはいけません。実は、きっちり装着すると健康な人でも呼吸が苦しくて、30分くらいが限度です。
ニュースに登場する人たちは、大きさが合っていない点ときっちりと装着してない点が気になります。
航空機の長時間の移動後に空港内で歩いている姿や、町中で装着したまま歩いている姿は、正しく装着していないからこそ可能なのです。
【SARSの安全宣言には新規患者の報告が20日以上ないのが条件】(2003/05/02加筆)
中国から帰国した邦人に対して、10日間自宅謹慎が求められています。これはSARSの潜伏期間が10日間とされている事に基づいています。
WHOでは、10日間の2倍の20日間以上新規患者の発生の報告がないと安全宣言を出しています。
中国については、毎日新規患者が報告されているので、安全宣言が出るのは、当分先になりそうです。
この記事は今後も情報に合わせて更新する予定です。
関連サイト:
Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS)
日本感染症学会