『鼻薬を嗅(か)がせる』と言っても意味の通じない人が大勢いるでしょうが、この場合の『鼻薬』とは賄賂(わいろ)のことです。
でも、本物の糖尿病の薬を鼻から吸う時代がいずれ到来しそうです。
12月6日の日経新聞と讀賣新聞に、鼻から投与する糖尿病薬の発表が載っていました。
製薬大手の三共と酒類大手のサントリーという異色の組合せで、世界で初めて鼻から薬効成分を吸引するタイプを共同開発する計画です。
讀賣新聞の記事では、『鼻から吸う新型の糖尿病治療薬は、糖分の生成を抑制する働きを持つホルモンの一種が主成分で、日本人の糖尿病患者の九割を占めるインシュリン非依存性糖尿病に効果がある』となっていますが、一読して正確に意味が取れる人はなかなかの知識人です。
とてもややこしい話なので、ゆっくり読んでください。
インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪細胞に取り入れさせることによってブドウ糖の量を減らす働きのあるホルモンです。
体は血液中のブドウ糖を一定の値に保つ必要があるので、肝臓に貯えているグリコーゲンを分解してブドウ糖を生成させるホルモンも別に用意してあります。これが『グルカゴン』というホルモンで、インスリンを作る膵臓のランゲルハンス島という組織で同じように作られています。
空腹になって血中ブドウ糖が減ってくると、このグルカゴンが分泌されて血糖値を一定に保つのです。
グルカゴンの分泌を抑制する働きのあるホルモンの一種が、グルカゴン様ペプチド、タイプ1(GLP-1)と呼ばれるものです。同じような名前でも全く逆の作用を持っています。鼻から投与しようと考えているのはこのGLP-1のことです。
食事をして血液中のブドウ糖が増えるとインスリンが分泌されるのは誰でも分かる仕組みですが、体はもっともっと微妙なコントロールをしています。
食べた物が十二指腸から小腸へと移行する間に、実にいろいろなホルモンが消化管から分泌されて体の各器官に指令が飛びます。
たとえば、炭水化物を感知すると直ぐにGIPとか、このGLP-1が分泌されて、これが前もって少量のインスリンを放出するシグナルになります。食後の急激な血中ブドウ糖の上昇から体を守るように、予防線が張られているのです。