研究開発の末生まれた、新しいインスリン。糖尿病者の選択肢が、また一つ増えました。 |
このインスリンは1型および2型糖尿の基礎インスリン(ベイサル)を補充するために開発された、新しいタイプのインスリンです。
基礎インスリンとは?
糖尿病のない人の場合、食べた物が消化吸収されて、もう血糖値が上がらない状態(空腹時)になると、血糖値を一定の範囲に保つために肝臓からブドウ糖が放出されます。これを一定にコントロールするために、すい臓から常に毎時0.5~1ユニットのインスリンが分泌されます。これが基礎インスリンです。「肝臓」は血液中のインスリンに応じてブドウ糖を放出したり控えたりしているので、インスリン濃度が下がればブドウ糖を放出します。また、「脂肪細胞」も血液中のインスリン濃度が下がれば空腹時だと判断して、エネルギー源の脂肪酸を放出します。ですから、肝臓への過度の遊離脂肪酸の集中(ケトン体生成につながる)を防ぐためにも、基礎インスリンが必要なのです。
基礎インスリンとして、長い間「NPH」や「レンテ」、「ウルトラレンテ」というインスリンが使われてきましたが、数年前からインスリン「グラルギン」(商品名ランタス)が使われ始めました。これ以降、「レンテ」や「ウルトラレンテ」は市場から姿を消しました。「NPH」は中間型あるいは混合型インスリンとしてよく使われています。
そして今回ご紹介する、新しいタイプのインスリン、「インスリン・デテミル」の登場です。
インスリン・デテミルの特徴
インスリンはA鎖・B鎖という2本のペプチド(アミノ酸の連結したもの)がS-S結合したものですが、A鎖には21個のアミノ酸、B鎖には30個のアミノ酸があります。これに対してデテミルは、B鎖の30番目のアミノ酸(トレオニン)を外して、代りにミリスチン酸という脂肪酸(炭素数14)を29番目のアミノ酸(リシン)につなげた独特の形をしています。このミリスチン酸の"しっぽ"と注射液に含まれる亜鉛イオンの力で、体内に注入されるとインスリンが6個合体したもの(6量体)やそれが更に2個ずつ合体した2*6量体ができます。これらはとても安定したものですから、すぐにはインスリン1個の単量体(モノマー)にはなりません。そして、このミリスチン酸の"しっぽ"は体内のアルブミンというタンパク質にインスリンをつなげてしまうのです。
こうなるとインスリンの作用が止まってしまいます。しかし24時間かけて少しずつインスリンがバラバラになって血液に流入し、基礎インスリンとなるという仕組みです。元となるヒト・インスリンですが、これはノボ ノルディスク社が「ビール酵母」を使った遺伝子組換えのハイテク製法で作り出しています。
「NPH」や「グラルギン」に比べると効き方に個人差が少なく、予測しやすい基礎インスリンというのが"ウリ"のようです。
なお、「デテミル」は一般名(成分名)。アメリカなどでは「Levemir」という商品名ですが、日本での商品名はまだ発表されていません。いずれにしても、選択肢が増えるのは歓迎ですね。
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