インスリンの発見が1921年、すでに80年以上たっていますが、今後10年でその間の治療の進歩よりも、もっと大きい変化が予測されています。10年後の糖尿病者はどのくらいハッピーでしょうか?
アメリカ糖尿病協会のプレジデント、Dr.Alain Cherringtonによると、根底から治療の考え方、方法が変化するそうです。
よく知られているように糖尿病は一度発症すると完治することはなく、その治療も難しいものです。
それはこの病気には、全身のシステムが関係していて、しかも経年変化していきますし、加齢による老人病でもあり、全く異なる病因でインスリンが分泌できなくなるタイプの違う糖尿病(1型)もあるのです。十人十色、百人百様なのです。
いまは生活習慣病と言いますが、90年代の初めまでは『成人病』と言っていました。成人病の特徴のひとつとして、一度悪くなったところは元に戻らないという『不可逆性』があります。
新しい考え方の治療が始まる
テクノロジーの進歩が治療の問題解決に役立つことは間違いありません。たとえば遺伝子分析から、その人に合う薬の投与や新薬の開発、合併症の傾向までわかるようになるでしょう。そして糖尿病予防の対策も進むはずです。肥満が2型糖尿病の引き金になるのは確かですから、肥満の薬物治療も可能性があります。世界中で肥満が社会問題になっていますから、製薬会社がこんなビッグマーケットを見逃すはずがありません。
GLP-1とDPP-IV阻害薬の進歩
GLP-1はリンクで確認してください。いま、最も注目されているホルモンであり、糖尿病治療にも有効だと考えられています。なによりも、インスリンを分泌するすい臓のベータ細胞を増やす唯一の物質なのです。GLP-1は小腸から分泌されるホルモンですが、インスリン分泌をうながし、血糖を上げるホルモン(グルカゴン)を抑制し、胃腸を空にするスピードを遅らせ、食欲を抑えてくれます。
2型糖尿病にとっては救いの神ですね。原因か結果かは分りませんが2型糖尿病者にはこのホルモンが少ないのです。
そこで注射でこのホルモンを補うことが考えられますが、困ったことにこのGLP-1は1~2分間で酵素によって分解されてしまうのです。
そこで2つの方法が研究されています。
ひとつはGLP-1と同じ作用を持ちながら、構造が少し異なる物質を合成して体内での分解を防ごうというもの。この物質はアリゾナ(アメリカ)の砂漠にいるトカゲのだ液から発見され、適用目前です。
もうひとつはGLP-1を分解する酵素DPP-IVの働きをブロックしてしまおうという方法です。これもどんどん研究が進んでいます。
1型糖尿病では自動的に血糖値を測る血糖測定器と、それに連動して適量のインスリンを体内に注入するインスリンポンプの開発が成功するでしょう。外部づけの人工すい臓の夢が実現しそうです。
あと10年の我慢。きっとハッピーになれますよ。
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