不妊症/全国の不妊治療の病院・クリニック・治療院

越田クリニック訪問記(2)

大阪梅田の越田クリニックにインタビューをさせて頂きました。パート2も毎年350名の妊娠例があるこの高度生殖医療施設の真髄にせまります。

執筆者:池上 文尋

越田クリニックスタッフの皆さん




越田クリニック訪問記(1)はこちら


院長先生への質問(前回省略した部分です)

★先生ご自身、最近特に力を入れている治療はありますか?

現在、男性不妊に力をいれております。その中でも
クラインフェルター症候群をはじめ無精子症の治療には特に力を入れております。

無精子症には精路が閉塞しているために精子が出てこない閉塞性無精子症と、造精機能が低下して精子が出てこない非閉塞性無精子症があります。閉塞性無精子症では造精機能はありますから精巣生検で100%精子を回収することができます。非閉塞性無精子症の場合精巣の限られた部位で精子をつくっている場合がかなりありますがこの部位を的確に生検しないと精子を回収できません。

非閉塞性無精子症の場合、肉眼で見て生検をおこなっての回収率は20-30%程度ですが顕微鏡下に拡大して精子をつくっていそうな部位をピンポイントで生検するMicridissection法をおこなうことで回収率は50-60%くらいになります。この方法をおこなわないと精子がいるのに見逃してしまう可能性が高くなるということです。またピンポイントの生検をおこないますから精巣組織へのダメージも最小限ですみます。

無精子症の場合、当院では神戸大学の泌尿器科助教授の岡田先生と共同でMicrodissection法での精巣生検をおこなっています。精子が確認できれば何本かのストローに分注して凍結保存をしておきます。

その後、奥様に排卵誘発をおこなって複数の卵胞を育てて採卵し、凍結しておいた精巣精子を解凍、顕微授精をおこない受精卵を移植するという手順で治療をおこなっています。多くの受精卵が得られれば受精卵の凍結も可能です。精子を確保した後に排卵誘発をおこないますから無駄な排卵誘発もしなくてすみます。

クラインフェルター症候群は男性不妊の原因となる性染色体異常です。本来、男性はXYという性染色体を持ちますが、クラインフェルター症候群の場合、XXY(XXXY、XXXXYの場合もあります)という型をしめします。普通の男性より、1本以上余分にX染色体を持つわけで、女性化乳房を持っていたり、精巣が萎縮していたりします。

無精子症を伴う場合が多く、程度の差こそあれ、造精機能および精巣機能の低下を伴いますが、他の体の機能が特に異常をきたすというわけではないので、社会生活を送るのに問題はありません。男子新生児の約1,000人に1人の割合で発生するとされますので比較的多い染色体異常の一つであり、かなりの数の男性不妊要因となっていることが推察できます。しかも、症状といってもはっきりしない場合も多く、本人もクラインフェルター症候群と気づかずにいる場合が多いのです。

このクラインフェルター症候群患者を治療する場合、多くの場合、非閉塞性無精子症ですから精子は精巣から採取することになりますが、クラインフェルター患者は精巣が極端に萎縮していたりするので、精巣生検するには前述のMicridissection法でないと対応は難しいと思います。

多くの不妊治療施設では、精巣精子を用いた顕微授精をおこなう場合、妻の採卵に合わせて精巣生検をおこなう事が多いのですが、全身麻酔を必要とする顕微鏡下手術を直前まで予定が決められない妻の採卵に合わせておこなうことはなかなか困難です。またクラインフェルター症候群患者の場合は、Micridissection法を用いても精子を回収できる確率は50%程度ですので、精子が回収されなかった場合には妻側の排卵誘発が無駄になってしまいます。

事前に予定手術で顕微鏡下精巣生検をおこない、得られた精子を凍結保存しておくことで高い精子回収率と無駄な排卵誘発を防ぐことができます。このためには非常に少ない精巣精子を解凍後生存させておく凍結技術も必要になりますが、当院では、以前から精巣精子の凍結保存技術向上に取り組んできており成果を上げてきました。

これらの技術のコンビネーションで、非常に難しいといわれているクラインフェルター症候群の不妊治療の成功率も向上しており、現在までにクラインフェルター患者6例に対し5例の妊娠例があります。
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