「徘徊がやんだ!」
「せん妄が治った!」

痴呆症状に効果をもたらす「音楽療法」が注目を集めています。無表情な顔に喜怒哀楽が生まれたり、会話が増えたりといった効果ばかりではありません。寝たきり防止や、難聴治療にも活用される、というのですからびっくり。在宅での実践ノウハウについて、財団法人東京ミュージック・ボランティア協会理事長 赤星多賀子さんにお話を伺いました。


■□協会で使用している鈴。手指が使えないお年よりでもOK。手首に巻いて使える

さくらふぶきの素材小屋









財団法人東京ミュージック・ボランティア協会は、1971年に活動開始、1977年に公益法人として発足した、日本における療育音楽(音楽療法)のパイオニア。障害児や痴呆のお年寄り向けに療育音楽を実践、全国で啓発活動を続けており、すでに700以上の介護施設がそのプログラムを取り入れています。その活動はNHKやラジオ、新聞など各種マスメディアでもたびたび取り上げられてきました。

在宅で音楽療法にトライ!
―在宅で療育音楽をおこなうためのノウハウを教えてください

いきなり「さあ、歌いましょう」と促しても、なかなか歌ってくれないお年寄りが多いんです。これにはいくつか理由があります。
ひとつは、苦手意識。明治以降、日本の小学唱歌では、「情操教育」「技術習得」「学問教育」に重点が置かれてきました。きれいな声で上手に歌わなければいけない、という刷り込みがされてしまったんです。でも、音楽とは、まず楽しむことが大切ですよね。
でも、わたしたちが目指すのは、あくまで「健康に役立つ音楽」。物忘れなど痴呆症状のある方も、歌うことで記憶がよみがえったり、しっかりと記憶することができるようになったりします。つまり、音楽療法は回想療法でもあるのです。参加者にはリラックスして歌うことや、リズムをとることが第一であることを理解してもらいます。「健康のためだから、歌いましょうよ」と。男性にも、歌うことに偏見を持たないよう説明します。

■□タンバリン。グリップ部分に凹凸があり、握ることで刺激が感じられる


―自宅で歌うのに抵抗のある人も多いのでは

ヘルパーさんと一緒だと大丈夫なのに、家族の前だと照れて歌えない、というケースもあります。様子を見て、歌いやすい環境づくりを心がけましょう。楽器を演奏できるお子さんに参加してもらうとか、家族が一緒に盛り上げるようにする工夫も大切です。


―歌うときに注意することは

できれば大きな声で、お腹から出すように。といっても、ご近所への迷惑もありますので、「可能な程度」でOK。鼻歌でも効果はあります。

■□カスタネット


―歌うだけではなく、軽く身体を動かすことも大切ですね

指先を合わせることで脳の神経細胞を刺激します。元気な方はさらに手首を動かしたり、それにあわせて上半身を動かしたり。状態に合わせて、変化をつけるようにするとよいでしょう。足の使える方は軽くサイドステップを踏むと、前身の活性化につながり、さらに効果的です。


―どのくらいのテンポが適していますか

理想的なのは脈拍と同じくらいのテンポ――1分間に60回程度ですが、曲によって速いほうがよい場合もあります。テンポに自然に乗れるよう選曲しましょう。個人個人に合うテンポ設定も大切です。


―楽器にはどのようなものが適していますか

幼児用の器楽演奏に使われる楽器・・・タンバリンや鈴、カスタネットなどが高齢者向け音楽療法にはうってつけです。手を使って音を出せるものがよいでしょう。私どもは2、3種類を取り混ぜて、変化をつけるようにしています。協会ではグリップ部分に凹凸のある楽器を揃え、握ったときに刺激を与える工夫をしています。空き缶に、米や小豆を入れた手作りシェーカーもおすすめです。

■□シェーカー。ジュースの空き缶に、小豆や米を入れ、ラッピングして出来上がり

次のページでは「選曲」について解説します