せっかくの制度を廃止した理由は?
フレックスタイム制は本来、精神的ゆとりをも含めた健康管理上のメリットとともに、その裏に、自主管理意識を芽生えさせ、社員の活性化を図って、仕事の効率を高めようという狙いをもっています。
ちょっと体調が悪いときには、いつもより遅く出社できるとか、夕方から映画を見たいから仕事を早めに切り上げるなど、必ず会社にいなければならない時間帯(コアタイム)以外の、出社時間帯と退社時間帯のフレキシブルタイムをうまく活用することで、精神的なゆとりが生まれる。そのゆとりを、次の仕事に生かしてくださいね、といった意図があるわけです。
ところが、せっかくの制度でも、いざ導入してみると、ほとんどの社員がコアタイムギリギリに出社し、退社してもいい時間になっても、そのまま仕事を続けるといった具合に、結局、勤務時間をフレキシブルタイムの時間分遅らせただけといった状況になりがちです。
実際に、廃止に踏み切った企業の廃止理由を見ても、「用件の伝達速度が落ち、全体的に業務の遅行が目立つようになった」だとか、「メールを送っても、出社しているかどうかを確認するため改めて電話をかけるなど効率が悪い」、「全員揃っての意思疎通が難しい」など、何らかの形で業務に支障を来しているとのこと。
制度導入で仕事の効率があがるどころか、朝イチで仕事の打ち合わせをしようとしても集まりが悪いなど、非効率な面ばかりが目立つようになったわけですね。会社によっては、利用者が女子社員に偏ってしまったとか、自由すぎてとくに若手社員の生活が乱れてしまったところもあるとか。
フレックスタイム制度よりも、さらに社員の自主的な時間管理を可能にする裁量労働制を導入する企業もありますが、こちらは、大手企業でも専門業務型が8.0%、企画業務型が3.2%といったところ。フレックスを止めて裁量労働に切り替えたというわけでもなさそうです。
実は、70年代にもフレックスタイム導入のブームがあったのですが、それも同じような理由で廃止が相次いだ経緯があります。私自身も含めて、日本人はこと時間の有効活用という点では、いっこうに進歩していないということでしょうか。
少子化が深刻な問題として取り上げられ、一方で、子どもができたあとも仕事を続けたいと希望する女性が増加している今日、育児と仕事の両立を支援する上で、フレックスタイム制も有効な制度の一つといわれています。これからは、対象となった部署や業務全体に制度を適用するといった導入の仕方ではなく、育児や介護など特定の事情を抱えている社員に限定する形がとられていくのかもしれません。
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