今年の12月は5年に1回、韓国大統領選が行われることになっています。隣国である韓国の政治体制や政党、地方制度についてはあまり知られていません。韓国政治の基礎知識と最近の情勢をお話します。
1ページ目 【権限は強いが任期が短い、韓国の大統領】
2ページ目 【韓国の国会と政党……政界再編はあるか】
3ページ目 【韓国政治情勢──2007年大統領選に向けて】
1期5年間しか勤められない大統領
韓国の政治制度。基本的には大統領制だが、首相にあたるポストも存在する。 |
また大統領は、国会が議決した法律案を15日以内に公布することになっていますが、これをしないで国会に返して再議を要求することができるという、事実上の法案拒否権を持っています。これもアメリカと同じ仕組みで、大統領の大きな権限といえます。
さらに大統領はフランス大統領と同様、重要事項を国会にはかるのではなく、直接国民投票にかけることができる権利も持っています。
アメリカと違うのは、任期が5年であり、しかも再任が認められていないということです。1回の任期しか勤めることができないのですね。
これは大統領の求心力にとって大きな問題だという声もあります。任期が後半になると、次の大統領が誰になるかに関心が移ってしまい、大統領の政治力が弱まるということがいわれているからです。
以前のように、大統領個人に非常に大きなカリスマがあり、大統領後継問題にまで影響力を及ぼすことができた時代は、まだ大きな問題にはなっていませんでした。しかし政党政治が発達し、大統領の持つカリスマが薄くなっている今日においては、「大統領のレームダック(死に体)化」が起こることは、韓国政治にとってあまりいいことではないかもしれません。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領はアメリカなどと同様に、大統領任期を1期4年、2期まで就任できるようにする改正案を今年の1月提案しましたが、今のところ賛同はあまり得られていません。
大統領を補佐する首相と閣僚
大統領は、国会の同意を経て国務総理を任命します。国務総理がいわゆる首相にあたります。韓国は、フランスやロシアと同様、実質的権力を持つ大統領の下に首相を置くシステムをとっているのですね。そして首相の要請のもと、大統領は閣僚を任命します。この閣僚たちは国務委員と呼ばれ、日本でいう「省」にあたる「部」の主任となります。
閣議は国務会議とよばれ、大統領が議長、首相は副議長となります。このため、首相の権限はあまり強くありません。韓国の制度は首相の権限が時として強くなるフランス型ではなく、首相が大統領の側近として補佐に徹するロシア型ということがいえるでしょう。
そのため「内閣」の定義はあいまいで、内閣不信任という制度もありません。ただ、国会議員在籍議員の過半数の賛成で、首相あるいは閣僚は解任されます。これに対し、大統領サイドが国会を解散することはできません。
また、大統領と違い、首相と閣僚には国会に出席し、答弁などをする義務があります。
大統領直属の機関
日本の省庁にあたる部・庁の他に、大統領は多くの直属機関を持っている。 |
中でも大きな権限を持っているのが大統領秘書室で、補佐官や秘書官などがいて、大統領を補佐しています。かつては首相や閣僚以上の権力を持ったこともありました。改革され権限は縮小されましたが、今でもその力は無視できないとされています。
国家情報院もまた大統領の直属機関で、歴代大統領がしばしばこの機関を利用して反対勢力を弾圧するようなことがありました。他にも大統領は多くの直属機関を持っています。
大統領弾劾制度
大統領が職務に際して法律や憲法に違反したときは、国会は在籍議員の3分の2以上の賛成で、大統領についての弾劾訴追を決定することができます。弾劾訴追は憲法裁判所に対して行われ、憲法裁判所で弾劾審判が行われることになります。また訴追が行われた場合、大統領の職務は停止され、首相が職務を代行します。
2004年、国会は盧武鉉大統領を弾劾訴追しましたが、憲法裁判所はこの訴追を却下しています。
次ページでは、国会や政党、司法や地方自治についてみていきましょう。