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【左右の軸だけでは語れない、フランスの政党模様】
フランス政治の対立軸は2つではない
ナポレオン1世、ナポレオン・ボナパルト。フランス政治には彼のようなカリスマ的英雄が必要不可欠なのか? |
しかし、フランスはもう1つの軸、つまり「議会政治を尊重するか、それとも否定的に考えるか=大統領権限を強化するか」という対立軸もあります。
後者の考え方は、ナポレオン以来フランス政治のなかでたびたび出てくる「カリスマ的英雄による人民のための政治」を熱望する考え方です。このような考え方を、政治学では「ボナパルティズム」(ナポレオンの名前から)ということがあります。
フランスの政党は、左右、そして議会主義かボナパルティズムか、という2つの対立軸が存在しているのです。
小選挙区2回投票制
このようなことから、フランスには政党が多い。これが、第4共和制までの政治混乱の原因の1つでした。そのため、第5共和制では国民議会(下院)の選挙に「小選挙区2回投票制」を導入しています。
小選挙区制ですが、第1回投票で過半数の得票を得ない候補がいる選挙区については、上位得票者による決選投票をおこなうというしくみになっています。これによって、有権者はなるべく自分たちの意思を選挙に反映できるようになっています。
また、小選挙区制の導入により、政党の乱立はしだいにおさまり、徐々に3つの極に収斂(しゅうれん)するようになってきました。こうして、フランス政党政治は安定期を迎えることになったのです。
UMP──ド・ゴールの子どもたち
ゴーリズムの担い手は現在ではUMP、オルレアニストを担っているのは現在のUDF。しかし左右ともに中道化が進んでいる。 |
彼らは第5共和制を作ったド・ゴールの流れを組む、いわゆる「ゴーリスト党」です。ド・ゴールは政党政治を嫌った人物として知られています。そのためその流れを組むUMPは「右派・ボナパルティズム」政党といえるでしょう。
彼らを与党に持つシラク政権の「ゴーリズム」はイラク戦争のときに十分発揮されました。大国アメリカを向こうにまわし、イラク戦争開戦反対を唱えたその姿勢は、まさに「自主独立」を唱えたド・ゴールそのもの。そしてシラク大統領が行った核実験も、やはりゴーリズム路線といえます。
UDF──議会主義者たちの政党
さて、フランスの右派政党で、比較的議会主義(オルレアニズム)を表に出しているのがUDF(フランス民主連合)です。右派、といいますが、中道政党として説明されることも多い政党です。ジスカールデスタン元大統領の支持基盤として、非ゴーリスト政党が結集してできたものです。しかし基本的にはゴーリストと協調することが多く、選挙協力も行われています。
しかし、左派社会党と組む可能性は捨て切れないと考える人もいるようです。
社会党──事実上の左派統一政党
社会党は、1981年にミッテランを大統領に輩出してから、強力な政党となりました。1人の大統領、4人の首相を送り込み、共産党から左派勢力盟主の座を奪い取りました。今年の大統領選挙でも当然重要な勢力となるのですが、フランス社会党の特徴は日本やイギリスなどの左派政党と違い、労働組合の支持があまり得られていないことです。
そのため、浮動票をいかにつかむかがカギになるのですが、2002年の大統領選挙では、その浮動票を極右政党FNの候補ルペン党首に奪われてしまい、決選投票にまで進めないという失態を演じてしまいました。
FN──いかにもフランス的な極右政党
前回2002年の大統領選挙では、極右政党FNの候補ルペン党首が決選投票まで進出し、大きな衝撃を世界にもたらしました。とはいえ、FNの政策はいまひとつよくわかりません。言えることは、大衆受けしやすい政党であるということです。移民問題が浮上すれば、過激に排斥を唱える、など。そういう意味では、ボナパルティズム的政党だといえるでしょう。
ルペン党首のカリスマ的な言動もまた人気の1つです。「過激な石原慎太郎」といえばわかりやすいでしょうか? 停滞する国政に対し、喝を入れるおもしろいおじさん……しかしルペン党首ももう高齢、彼のあとを引き継げる人がいなければ、FNは「ルペン党」として終わりを告げることになるでしょう。
その他のフランス政党
かつて国民議会の20%以上もの議席を誇っていた共産党は、今や泡まつ政党です。社会党の強大化、冷戦の終結とソ連の崩壊が、その要員といわれています。しかし、なぜか「極左」とよばれる勢力が台頭してきました。特に台頭しているのがトロツキスト政党です。やはりラギエ党首のカリスマが人気なようで、FNと似たような支持の構図になっているようです。ラギエ党首もまた2002年の大統領選挙第1回投票で10.4%の得票を集めました。
次ページでは、いよいよ数カ月先に迫ったフランス大統領選の行方についてお話していきましょう。