2ページ目 【議院運営委員会は「出先機関」、本国は「国会対策委員会」】
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【不透明な日本の「国対政治」の内容、そしてこれからの展望は?】
波紋を呼んだ塩川発言・野坂発言
「55年体制」のもとでの国対政治は「与野党間の談合政治だった」との疑惑がもたれてきた |
ちょうど外務省元高官による機密費流用事件が明らかになったことをきっかけにして、この機密費の使い道について2人の内閣官房長官経験者が発言したことが広く知られるようになり、国会で問題になったのです。
まず、村山内閣(社会・自民連立)で官房長官を務めた野坂浩賢氏が、朝日新聞に語った内容(2001年1月26日号掲載)の要点は、以下のようなものでした。
・国会議員が海外視察に行くときに渡すせんべつ費用として機密費を使った。
・政局が難しいとき、3回ほど与野党の国対委員長に渡した。もっとも、共産党は呼んでも取りにこなかった。
・矛盾も感じたが、効果もそれなりに感じた。
さらに、宇野内閣(自民党)で官房長官を務めた塩川正十郎氏がテレビ朝日の「サンデープロジェクト」で行った発言(2001年1月28日)は、それが生放送番組だっただけに、さらに波紋を呼びました。そのときの内容の要約はこのようなものです。
・野党対策には、「現ナマ」と、「一席設ける」のどちらかがある。
・首相官邸の金庫にはそのため常時4、5千万円入っていて、ときどき会計課長が見に来て、足りなければ補充していた。
・いつも100万円単位で袋に入れておいていた。
機密費野党対策問題を追及したのはほとんど共産党だけだった「怪」
これは結構報道され、国会でも問題になったのですが、徹底的に追及したのは共産党だけでした。他は民主党の「55年体制を知らない議員たち」が3人ほど追及しています。この理由としては、国民の関心が野党対策問題よりも「機密費で遊んだり競走馬を買ったりした」というあきれた外務省元高官の犯罪の方に目が向いていたことも考えられます。
しかし、「共産党以外の政党はだいたいこの『野党対策』のお世話になっていたらしい」から、という話もあります。そのため、この問題が国会で大々的に追及されることはなかった、というのです。
いずれにせよ、2001年国会は途中、森政権から小泉政権に移り、追及された塩川氏は財務大臣となり独特の「塩爺節」で人気を博すようになり、結局政府が「機密費の中身は一切明らかにしない」という原則論を貫き通し、やがて忘れられていくことになったのです。
国対政治の一番の問題点は「闇から闇」
結局、国対政治の一番の問題点は、非公式で議事録も残らない国対委員長会談などによる議事運営決定システムによって、「すべてのことが闇から闇へ」葬られてしまう、というところにあるといえるでしょう。したがって、とても会議録の残る議院運営委員会なら言えるものではない「このお金で、なんとかここは妥協してもらって……」ということが、国対政治では堂々とまかり通ってしまうわけですね。
日本も二大政党化が進み、議会のアリーナ化(前ページ参照)が進んでいるため、昔ほど国対政治は威力を発揮していない、とも言われています。しかし、やはり今でも、政局の節目には国対委員長会談が密室で行われ、国対委員長にはある意味で「優秀な人物」が就任しているわけですから、このような談合的な国対政治が完全になくなった、とは言い切れないでしょう。
アメリカ議会のロビイングと日本の国対政治
議会政治に不透明な部分があるのは、なにも日本だけではありません。アメリカ議会では、企業・圧力団体・市民団体、はては外国政府などが、議員に向けてさまざまな活動を行い、協力を要請しています。このような活動は、よく「ロビイング」といわれます。
日本の陳情政治とも似ていないこともないですが、アメリカの場合、政党が議員に党議拘束をすることはまずないため、議員の交差投票、つまり[野党議員が与党の案に、与党議員が野党の案に、それぞれ投票すること]は日常のことです。
そのため、日本では陳情がもっぱら与党の議員に集中するのに対し、アメリカにおけるロビイングの対象は、全議員に及ばざるを得ません。
そのため、アメリカではロビイングをする専門家=ロビイストたちが多数いて、自分を雇ってくれる団体のために日夜、議員たちに対してロビー活動をしているのです。
この辺は、非常に密室的です。
しかし、議会の透明性を高めるため、アメリカ議会は1970年代から80年代にかけて改革を進め(サンシャイン=リフォーム)、1985年からはロビイストも、委員会の公聴会に出席して意見表明ができるようになっています。
かつてアメリカ政治の不透明さを代表してきたロビイストたちですが、今や彼らにとって、密室よりもむしろ透明な議会という場で国民に向かって団体主張の正当性を訴え、そのことで議員たちに世論を使ったプレッシャーをかけることも、一つのロビイング重要戦略となっているのです。
国対政治の今後は?
なにかと批判も多い「小泉劇場」政治だが、政治の透明性という面では若干の貢献をしたといえなくもないだろう |
「永田議員メール問題」は民主党国対委員長の交代に発展しましたが、これは民主党の「国対能力」が低下していたことの現れでもあります。簡単に国対政治をなくしてしまうと、かえってこういう問題が頻発するかも知れません。
「アリーナ型議会」は弱い議会で、アメリカのようにロビイングを通じてさまざまな団体の意見を法律化していく「変換型議会」が強い議会である、というのが政治学者ポルズビーの考えです。
しかし、アメリカよりも、その能力が劣ると言わざるを得ない日本の国会議員で成り立つ「変換型議会」のシステムは、どうもバランスを欠くようです。
日本のように一部の政治エリートが政党を強固に規律している現状では、国会の劇場化=アリーナ化を進め、政党の目を国対政治から選挙、有権者に向けることで、国対政治の効果を徐々に失わせていくことが現実的なのかもしれません。
※「『国会対策委員長』と国対政治・基礎知識」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座
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