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「ムハンマドの風刺画」怒る人々、掲載する人々

デンマークの新聞が「言論の自由のテスト」のために掲載したムハンマドの風刺画などがイスラム教の人々の怒りをかっています。イスラム教が禁じる偶像崇拝や、ヨーロッパの人権意識についてみていきます。

執筆者:辻 雅之

(2006.01.24)

イスラム教の開祖といわれるムハンマドの風刺画掲載をめぐって中東が大きな騒ぎになっています。イスラム教徒たちは怒ってデンマークなどの大使館を襲撃、ヨーロッパのメディアは表現の自由を声高に主張します。その背景をさぐってみます。

1ページ目 【なぜ偶像崇拝はいけないのか/ムハンマドとイエスの違い】
2ページ目 【「勝ち取られ、守るべき言論の自由」──ヨーロッパの論理】
3ページ目 【21世紀初頭の今、世界は「イスラムの時代」イスラム教への理解を】

まず、この事件は「ムハンマドの絵を書いた」ことから始まっています。イスラム教では禁止されているこの行為についてから、ご説明していきましょう。

【なぜ偶像崇拝はいけないのか/ムハンマドとイエスの違い】

偶像崇拝の禁止とは何か

偶像崇拝禁止
像や絵になった神は、すでに神ではない。一神教のなかでは神は唯一絶対のものであり、像や絵にすることはできない。
なにか像や絵といった、形のあるものを崇拝することを禁止することです。日本で普及している神道や仏教とは異なる特色です(もっとも、仏教も当初は偶像崇拝は禁止されていました)。

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教では、神の像や絵などといった偶像を崇拝することは禁止されています。なぜなら、これらの宗教では神は唯一絶対の存在であって、神に似せた像はすでに神ではなく、それらを信仰することは神への不信仰につながるからです。

あなたは自分のために、刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水の中にあるもの、どんな形も造ってはならない。それにひれ伏してはならない。それに仕えてはならない。「旧約聖書・出エジプト記 第20章4-5/訳:日本聖書教会」

あなたがたは,アッラーを差し置いて偶像を拝し,虚偽を捏造しているに過ぎない。あなたがたがアッラーを差し置いて拝するものたちは,あなたがたに御恵みを与える力はない。だから,アッラーから糧を求め,かれに仕え,感謝しなさい。あなたがたはかれの御許に帰されるのである。「聖クルアーン(コーラン)・第29章17/訳:日本ムスリム教会」

キリスト教は、偶像崇拝の禁止を狭く考えている

ただし、キリスト教は、偶像崇拝禁止の範囲を、ユダヤ教やイスラム教よりは、狭く考えています。

つまり、神そのものの像は造りませんが、救世主イエスや、聖母マリアの像などを教会などに置いたり、また、布教に使うことは容認しています。

最初は、キリスト教も偶像崇拝の禁止を徹底していましたが、やがて民衆の間でイエスやマリアの絵画などをうやまう風習が広がり、ローマ=カトリック教会もこれを容認するようになり、一時ビザンツ(東ローマ)皇帝を首長とするコンスタンティノープル教会(現在のイスタンブール、後のギリシア正教の総本山)と争うようになりました(8世紀)。

しかし結局、「聖像」の使用は認められるようになり、現在に至っています。

イスラム教では徹底される偶像崇拝

イスラム教の成立過程が、偶像崇拝や多神教宗教との戦いの過程でもあっただけに、イスラム教はその偶像崇拝を徹底しています。

つまり、神アッラーだけでなく、崇拝の対象となるようなすべての人々の偶像や画像などを造ることを禁止します。

イスラム教の創始者であるムハンマドは、それゆえに神以外の信仰対象となりやすく、それは神の意に反している。こうしたことから、イスラム教ではムハンマドの絵や像を造ることは、タブーとされています。

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ムハンマドのイスラム教での地位

ムハンマドは預言者の1人です。預言者というのは(よく予言者と間違う人が多いのですが)神の言葉を伝える人のことです。

クルアーン(コーラン)によると、そもそも人々はみなイスラム的な共同体、つまりウンマでした。しかし、やがて争いにより多くのウンマに分裂してしまいます。

こうした中、神は多くの預言者を遣わします。それが、たとえば方舟を造るようにいったノアであり、そして多くの民の先祖となったアブラハムであり、神から十戒を授けられたモーセであり、そして人々に福音をもたらしたイエスであったのです。

そして、最後に遣わされた預言者こそがムハンマドでした。ゆえに、彼以降、神の言葉は聖書とクルアーンによって完全に伝えられたので、これ以上預言者があらわれることはない、とされています。

イエスとムハンマドの違い

イエスとムハンマド
イエスは神の子であるが、ムハンマドは人間。人間であるムハンマドが崇拝の対象にならないよう彼の絵や像は造れないとされる。
イエスは、教義上「神の子」とされています。

イエスの地位については、初期キリスト教の段階から争いがあったのですが、325年のニケーア公会議で、キリストを「神の子」とするアタナシウス派が正統教義とされ、現在に至っています。

一方、ムハンマドは預言者とはいえ、あくまで1人の人間と規定されています。

かれは天使や預言者たちを主としなさい,と命じることも出来ない。あなたがたがムスリムになった後,かれがどうして,不信心をあなたがたに命じることが出来ようか。「聖クルアーン(コーラン)・第3章80/訳:日本ムスリム教会」(※ムスリム=イスラム教徒)

したがって、キリスト教におけるイエスと違い、イスラム教においてはムハンマドは信仰の対象としてはならないのです。

とはいえ、「最後の預言者」として、尊重されるべきはいうまでもありません。神の言葉を人々に伝えた人なのですから。

さて、次ページでは、この紛争の火種となっている観のある、ヨーロッパ側の「言論の自由」の歴史について、みていきましょう。

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