2ページ目 【憲法制定過程で生まれた「2つの草案」そしてマッカーサー草案】
3ページ目 【「憲法第9条」は自発的なものなのか、押しつけなのか?】
【「憲法第9条」は自発的なものなのか、押しつけなのか?】
自衛権を「確保した」といわれる「芦田修正」
まず、「芦田修正」というのは、憲法委員会委員長だった芦田が、言葉を整えるため、ということで加えたものです。日本国憲法 第9条
(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(下線筆者による。いわゆる「芦田修正」部分)
この修正によって、芦田は、第1項でいう侵略戦争のための戦力保持と交戦権は否認されるが、自衛権は認められるのだ、と、憲法審議と公布の後に、主張するのです。
これが、現在の「9条拡大解釈」の由来で、日本は自衛権と、自衛戦力(政府は「実力」といいますが)を持っていることになっているのですね。
「芦田修正」に敏感に反応したFEC
この修正は、大半の議員たちにはあまり敏感には響かなかったようです。この時どうも、憲法審議の大半は「皇室財産」の管理に集中していて(憲法第88条)、芦田修正の持つ意味などにはあまり考えが及びつかなかったようです。しかし、GHQとFECは、「これは再軍備への布石だ」と見抜いていました。GHQは、これによって拡大解釈され、日本が再軍備することに、一定の理解を示していたのですが、FECは懸念を示します。
そこで、FECは、国務大臣をすべて非軍人、つまり「文民」にするようかなり強く日本に求め、その条項が挿入されることになったのでした。
日本国憲法 第66条
(2)内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
この原則の下、今の自衛隊は、内閣総理大臣の指揮権の下に動くという、「シビリアンーコントロール(文民統制)」の原則が、自衛隊法などで確立しているわけです。
「戦争の放棄」を考えたのは誰だ?
さて、日本国憲法は、アメリカから押し付けられたものなのでしょうか。特に、第9条については。先のページで述べた通り、草案を作った幣原内閣では、「押し付けられた感」が強かったわけですね。
しかし、後年、その幣原は、回顧録でこう述べています。
それで憲法の中に、未来永ごうそのような戦争をしないようにし、政治のやり方を変えることにした。つまり、戦争を放棄し、軍備を全廃して、どこまでも民主主義に徹しなければならんということは、外の人は知らんが、私だけに関する限り、前に述べた信念からであった。(幣原喜重郎『外交五十年』日本図書センター)
はて、ですね。ここでは、幣原は積極的に戦争放棄を考えたことになっていて、みじんも「押し付けられた」感がないのです。
マッカーサーの回顧録によると、さらにこういうことになっています。
私は(幣原の考えを聞いて)腰が抜けるほど驚いた。……息も止まらんばかりだった。戦争を国際間紛争の解決手段として用いることを禁止することは、私が長年熱情を傾けてきた夢であった。(引用元は前掲書『マッカーサーと日本(上)』、カッコ内は筆者による)
いい話ですが、しかし、名外交官として幾多の修羅場を乗り切ってきた幣原と、生粋の軍人マッカーサーのこの話は、ちょっと出来過ぎかもしれません。
幣原もマッカーサーも、日本国憲法が「アメリカによって押し付けられた」という印象が国民にまん延することを、防ぎたい狙いがあったのでしょう。
特にこのような回顧録が書かれた当時は冷戦のど真ん中でした。憲法が押し付けられた、ということになると国論は二分し、日本は大変なことになると思ったのかも知れません。実際、安保条約の改定ひとつで、日本は大変なこと(安保闘争の勃発)になったわけですから。
どっちにしろ、もう憲法は「押し付けられたくない」
とにもかくにも、改憲を主張する人々の多くは、「日本国憲法は押しつけだ」として、国民による新憲法の制定を強く主張しています。そして、今、憲法改正論議が盛んに行われるようになってきました。憲法改正が実現するのも、遠い将来ではないでしょう。
そんななか、こんな記事を書いてみたわけです。日本国憲法は押しつけなのか、結構日本が関与して作られたものなのか、その判断はもちろんみなさんにお任せします。
ただ、日本ほど憲法が改正されない国は珍しい、というのも事実です。アメリカ憲法をみてみると、たくさんの修正が入っています(みればすぐわかるように、「修正○○条」となっています)。
ただ、いずれにしても、われわれは「どこかの政党、政治勢力」によって、憲法を「押し付けられる」ことは、避けたいものですね。
▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座
●「政治の基礎知識・基礎用語」 政治の基礎的な知識はこちらでチェック!