2ページ目 【平等権規定が保障している平等はどこまでの平等なのか?】
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【平等権規定が保障している平等はどこまでの平等なのか?】
「相対的平等」とは
すべての人がみな等しく同じ所得を持ち同じレベルの生活をする、という絶対的平等の達成は、資本主義社会ではまず無理です。それをめざしたのが社会主義国家だったわけですが、大半の国は1990年代までに破たんするか、中国のように大きな修正をよぎなくされています。
つまり、日本国憲法でいう「平等権」とは、「相対的平等」なのですね。
例でいうと、所得の格差、これは仕方がない(それでも社会保障制度で最低限の所得保障はされていますが)。
しかし、同じ所得の人の課税でなんの合理的理由もないのに一方を優遇するようなことはおかしい。そうしないよう、平等に扱う。これが、「相対的平等」です。
または、ある会社では女性社員に働きやすい環境をと、女性の育児休業を法律よりも伸ばした。これは、男性差別ではないか、という人もいるかも知れませんが、多くの人はこれは合理的な理由にもとづくものだとおもうでしょう。これも、「相対的平等」です。
もちろん、上記の例でいうと、女性の取得できる育児休業が、上司のお気に入りの女性社員だけ長く与えられ、そうでない人は短い、これは差別です。
「租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ……著しく不合理であることが明らかでない限り、……これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である」*サラリーマン税金訴訟最高裁判決より
「スプレー噴射で無理やり黒色」は「合理的理由」?
このように、日本国憲法では「相対的平等」を保障している、というのが学説の大半で、最高裁もこれを支持する判例を出しています。ということは、「合理的理由のある差別」は、認められるわけですね。
では、今回の事件で、女子生徒にスプレーを吹き付けて黒髪にしようとしたのは、「合理的理由」になるでしょうか。
これは、最終的には「社会的通念」でどうか、ということになるのですが、基本的には「非合理的理由」といわざるを得ないのではないでしょうか。
先天的に人と違うものをもっている人はたくさんいます。もちろんマイナスのものも。たとえば、生まれつき目の不自由な人が、信号があることさえわからず赤信号で渡ったとして、もちろんそれを信号無視、とみなすことは無理があるでしょう。
この女子生徒の場合、髪の毛の色は生まれつきだから黒じゃないといわれてもどうしようもないわけです。であれば、なるべく自然にまかせるのがいいのではないでしょうか。
彼女の場合、それでも自主的にいったん黒く染めたせいで、かえって変色してしまった。その変色が変に映ってしまったのも、彼女にはどうしようもできない先天的な理由です。それなのに、彼女だけにスプレー噴射という苦痛を味あわせたことは、「合理的」とはいえないでしょう。