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強制スプレー事件で考える平等権

ある県立の生徒だった方が、在学中、先天的に髪の毛が栗色だったにもかかわらず強制的に黒色スプレーを噴射されたという差別的行為の賠償を求める裁判を起こしました。これを機会に、平等権について考えます。

執筆者:辻 雅之

(2005.04.09)

生まれつき髪が栗色だったのにもかかわらず、無理やり教諭に黒色のスプレーを吹き付けられたとしてその県立高校の元女子生徒が宮城県を相手に損害賠償請求を起こしました。これはあきらかに憲法で禁じている差別ではないでしょうか? 考えてみます。

1ページ目 【「法の下の平等」の基本的な意味と保障の範囲】
2ページ目 【平等権規定が保障している平等はどこまでの平等なのか?】
3ページ目 【校則は憲法違反?/私立高校の生徒は訴えられる?】

【「法の下の平等」の基本的な意味と保障の範囲】

「スプレー強要」事件の事実関係は?

2005年5月8日、生まれつき栗毛だった髪を教師たちにスプレーで無理やり黒髪に染められるという人権侵害にあったとして、この宮城県立高校の女子生徒が、宮城県に損害賠償請求をしました。

各種報道によると、
1)女子生徒は生まれつき栗色(茶色)だった

2)この高校ではいわゆる校則で髪の染色は禁止されていた。ただし、報道からは「黒」でなくてはならなかったのかどうかは定かでない。

3)女子生徒は最初は自主的に黒くしていたようだが、染色によるダメージによってかえって赤色に変色していたらしい(一部報道)。

4)女子生徒はこの高校を自主退学しているが、その件とこの事件との関連を訴えているかは情報が錯綜。

5)女子生徒サイドが、これを民法上の不法行為違反として訴えているのか、憲法14条の平等権侵害として訴えているのかについては、これも不明。

※4月9日午前9時までに、著者の知りえた情報範囲の段階です。

憲法14条「法の下の平等」

さて、まずこの事件は、あきらかに「法の下の平等」に違反していることはいうまでもありません。つまり、「生まれつき栗毛」という、どうしようもないいわれをもって、この女子生徒だけ「スプレー噴射」という堪え難い苦痛を味わったわけですから。

日本国憲法
第14条1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、社会的関係において、差別されない。


ここで差別の根拠として挙げられている「人種・信条(己の生き方)・性別・身分・門地(家柄)」などは、あくまで「例」であり、他のさまざまな根拠による差別はすべて否定される、というのが学説であり、最高裁の判例でも数回示されています。

また、仮にこの女子生徒が「外国人」であっても、「類推解釈」によって生徒の平等権は保護されると考えられ、最高裁の判例でも示されています。

類推解釈」とは、法を解釈する上で、言葉どおりの解釈(「文理解釈」)ができないときに行われる「論理解釈」の一種で、規定がない場合の事柄について、それに類似する事項の規定を適用することです。

ですから、「生まれつきの髪の毛の色」がたまたま他の人とは違ったからといって、無理やりスプレー噴射を受けた、というのは、まずこの女子生徒の「平等権」が侵害されたといっておかしくないわけです。

 

もっとも、平等権で保障されている平等というのは、絶対的な平等を意味しているわけではありません。それが、「相対的平等」の考えです。これについては、次ページで説明していきましょう。

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