社会ニュース/よくわかる政治

北方領土問題基礎知識(後編)(3ページ目)

ロシアのプーチン大統領訪日にそなえて知っておきたい北方領土問題基礎知識、今日は後編です。日本とソ連(ロシア)がどういう交渉をしてきたのか、解説していきます。

執筆者:辻 雅之

「前編」はこちら

1ページ目 【国際文書の解釈で最初から難航した日ソ交渉】
2ページ目 【ソ連だけでなく、アメリカからも揺さぶられる交渉の行方】
3ページ目 【日ソ共同宣言と東京宣言】

【日ソ共同宣言と東京宣言】

こちらも要チェック! 政治についての基本知識と基本用語

択捉・国後問題は「棚上げ」した日ソ共同宣言

モスクワで実際にフルシチョフ首相と交渉を煮詰めたのは河野だったようです。一方、病気がちの鳩山はこれを潮に退陣を考えていました。

結局、シベリア抑留者の釈放や国連加盟問題など、懸案は片付きましたが、やはり領土問題はソ連は一歩も譲らず、前ページで説明したような形で幕引きされることになりました。こうして調印されたのが下にある「日ソ共同宣言」です。

日ソ共同宣言
第9条 日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。


結局択捉・国後については一言も言及なし、歯舞・色丹返還も即時ではなく、あくまで
平和条約締結後
とされ、しかしその条約は結ばれないまま、今日まで至っているわけです。

しかし、とにもかくにも、これで日ソ国交は正常化し、その年の暮れ、日本はソ連の支持を得て国連に加盟、これをはなむけに鳩山は退陣します。

(ちなみに、なんでソ連が支持しないと国連加盟ができなかったかというと、国連憲章で国連加盟には安全保障理事会(安保理)の加盟勧告が必要だったからです。ソ連は安保理の常任理事国で、拒否権を持っていましたから、ソ連の加盟賛成は必須だったのです)

東京宣言の意義と「落とし穴」

その後、一時ソ連は歯舞・色丹の返還まで反故(ほご)にしようとする姿勢を見せたこともありました(特に1960年、グロムイコ外相は「歯舞・色丹返還の条件は在日米軍の撤退だ」と共同宣言に一言も書いてないことを言い出しました)が、冷戦の終結とともに、ソ連→ロシア(1991ソ連崩壊)の態度も軟化。

そんなムードの中、細川首相とエリツィン・ロシア大統領が1993年東京で首脳会談を行い、両首脳は「東京宣言」に署名しました。

東京宣言 第2項
日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識を共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。(後略)(下線は筆者による)


つまり、正式な外交文書で、ロシアは択捉・国後までを含めた北方領土問題に取り組むことをはっきり宣言したわけですね。これは大きな意義を持つといわれます。いままではこれが問題であることすら否定されていたわけですから。

しかし一方、危険も抱えていると指摘する人もいます。正式な外交文書で、択捉・国後を含めた四島を一括してこれからも協議するとしたのは、少なくとも択捉・国後問題が棚上げされてあいまいだった状態から比べるといい。

しかし、東京宣言が日ソ共同宣言より優先すると考えるなら、協議の結果四島一括で「帰ってこないこともあり得る」。東京宣言では四島一括協議ですからね。

しかし、東京宣言を棄てて日ソ共同宣言にこだわれば、歯舞・色丹は返還されるが一言も言及されていない択捉・国後は永久に帰ってこない。

うーん、やはりロシアはナポレオン戦争の頃からヨーロッパの激動を生身で経験してきただけあって老獪(ろうかい)。日本はお人好しなんでしょうか?

4回の首脳会談を経て、2005年

東京宣言の後、川奈会談、モスクワ会談、クラスノヤルスク会談、イルクーツク会談と4回の首脳会談が行われましたが、具体的な成果は出ていません。

川奈会談(1998)のとき、橋本首相はエリツィン大統領に(1)国境線を択捉島とウルップ島の間に設定する(2)その上で、北方領土の当面の「施政権」(行政を行う権利)をロシアに認める、という提案をしました。しかし、ロシアが受け入れることはありませんでした(提案タイミングの失敗だったという声もある)。

そして、特に今年になって、エリツィンの後継であるプーチン政権サイドからは「歯舞・色丹返還に応じないなら一切の返還はない」という声が聞かれるようになりました。

1月14日に行われた町村・ラブロフ両外相の会談でも、ロシアは強硬。「二島のみの返還で最終的に決着したい。ロシア側の態度は明確だ。日本が二島返還による決着に応じないなら、われわれの回答は『ゼロ』だ」(産経新聞2/2号から引用)ラブロフ外相はこう語っているようです。

ロシアだから、プーチン政権だから、という人もいますが、どの国家でも自分が「領土」だと信じ込んでいるものを返せといわれてもいやなもの。最初に北方領土を不法占拠したスターリンは確信犯でやりましたけど、プーチンの世代は「あそこは昔からロシアの領土だ」と思い込んでいる世代ですからね。

2島返還で十分日本側に譲歩している(してやっている)つもりでいるロシアと、4島返還に応じないことにロシアの誠意を疑う(今までのことを考えれば疑わざるを得ませんが)日本。4月に予定されている小泉・プーチン会談で何か「サプライズ」はあるのでしょうか。悪い「サプライズ」でないことを祈りつつ、注目します。

【編集部からのお知らせ】
・「都道府県のイメージ」について、アンケート(2024/5/31まで)を実施中です!(目安所要時間5分)

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※回答上限に達し次第、予定より早く回答を締め切る場合があります
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます