ここで、自己資本比率と銀行経営の安全性を考えるために、A銀行とB銀行を考えましょう。A銀行は、自己資本10兆円、他人資本90兆円、貸付金(総資産)100兆円、自己資本比率=10兆円/100兆円=10%です。B銀行は、自己資本5兆円、他人資本95兆円、貸付金(総資産)100兆円、自己資本比率=5兆円/100兆円=5%です。
もし、A,Bともに、貸付金の一部が不良債権化し7兆円の損失を被ったらどうなるでしょうか。A銀行は自己資本が10兆円ありますから、7兆円損しても、自己資本が3兆円に減るだけです。他人から借りた他人資本90兆円は無事です。ところが、B銀行は自己資本が5兆円しかありませんから、7兆円損すると、自己資本5兆円がなくなるだけでは足りず、他人から借りた他人資本も2兆円なくなってしまうことになります。他人資本が減るということは、約束通りに返済できない、具体的には、預金者全員には預金の払い戻しができないということになります。
このように、自己資本が少ないと、損失を被ったときに他人から借りたお金を返せなくなる、つまり、倒産する可能性が高くなります。ですから、同じ100兆円という総資産で自己資本が多いA銀行の方がB銀行よりも安全だということができます。
なお、貸付金が多ければ当然、倒産する企業も多いでしょうから、不良債権による損失の金額も多くなるでしょうから、より多くの自己資本が必要となります。ですから、自己資本の金額そのものではなくて、自己資本を総資産で割った自己資本比率を用います。つまり、自己資本比率とは、総資産(=貸付金)の割りに、損失に耐える自分のお金をいくら持っているかを意味します。
つまり、自己資本比率が高いと安全で、自己資本比率が低いと危険ということになります。しかし、安全性は自己資本比率だけで単純に判断できるものではありませんので注意が必要です。これは、体調を体温だけで測るのではなく、血圧、顔色、脈拍などで総合的に判断するのと同じです。
国際ルール8%、国内ルール4%
なお、国際ルールでは、自己資本比率8%以上の銀行しか国際業務は行うことができません。国内ルールは4%以上であればよいことになっています。
なお、自己資本比率が4%を割った銀行は危険な銀行と判断され、行政から早期是正措置という行政措置がとられることになっています。
次回は、銀行のニュースによく出てくるもう一つの専門用語「貸倒れ引当金」についてです。
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