古民家/古民家探訪

小さくても狭くても感じられる豊かさとは?

住まいの豊かさとは広さや大きさだけなのでしょうか。その答えとなるような建物が三重県松阪市にありました。電信柱、電線、テレビのアンテナもない清々しい街並からは、豊かさとは何かが読みとれるようです。

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド

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住まいの豊かさとは広さや大きさだけでしょうか? 美しい街並に建つシンプルな住宅なら、小さくても狭くても豊かさを感じられるのでは?

今回は住宅と豊かさについての話です。でも、その前に新幹線のエピソードから聞いてください。

私の友人に、東海道新幹線を、1964年の開業以来利用している人がいます。当時、関西に住んでいたその人は、実家の東京に帰省するために利用していたそうです。新幹線が開業する以前、特急の大阪~東京間の所要時間は約6時間。同じ距離を新幹線は3時間10分で行くわけですから、まさに「夢の超特急」だったわけです。

最初に乗ったときは、さぞワクワクしたのだろうと往時の感想をたずねたとき、その友人の返答は全く別なものでした。曰く「狭くてがっかりした」でした。

新幹線は豊かじゃない!?

新幹線以前の特急列車の座席は、横1列で4座席。新幹線は5座席です。車体の幅が広がったので従来の4座席から5座席へ増やしたわけですが、その結果、1席分の幅が狭くなり、前述の感想になったようです。(1席分の幅だけでなく席と席の間隔も狭められていたと、友人は感じたようです。それだけ1車両の定員を増やしたのですね)

私など、座っている時間が半分になるのだから「狭くても、まぁいいか」と考えてしまいますが、当時、小学1年生だったその友人は、所要時間が約半分になることより、それまでの特急のゆとりある座席の方に魅力を感じていたようです。「だって特急というのは特別な急行という意味でしょ。今までの座席の広さは確保しながら、スピードアップするのが当然でしょう」とは、その友人の言葉です。

小学生の小さな身体で、そんな狭さを感じた友人の感性もある意味スゴイとは思いますが、「豊かさとは何か」を考えるとき、私はいつもこのエピソードを思い出します。私たちは、機能的な進歩の影に、こういった豊かさをなくしてきたのかもしれません。けれども、つい最近、こういった機能優先の流れに抵抗して、昔のままの豊かさを維持している街を見つけました。しかも、それは江戸時代から連綿と続いているという、とても頼もしいものです。

美しさを感じる街並み

その街をご紹介するする前に、下の2枚の写真を見てください。

  
松阪の街には電信柱のない通りがありますが、1本奥に入るとこのとおり

この写真は、「情緒だけではない!古きよき住まいの知恵」でご紹介した「松阪商人の館」がある三重県松阪市街のある場所を撮ったものです。この2枚の写真を見比べると一目瞭然、電信柱のない街並みの方がいかに美しいかがおわかりいただけると思います。

「1軒の努力では、家の資産価値は守れない?」でもお話したように、「美観」は、家の資産価値の向上には欠かせない要素です。2軒の建物はどちらも味わいのある佇まいを残していますが、何本もの電線が見える景観と、電線のない景観なら、どちらのほうが美しさを感じますか?

さて、写真でお見せした例は1軒のみの場合ですが、ある一画全てが、このような電信柱と電線、果てはテレビのアンテナまでない家々が連なる街並みだとどうなるでしょう? 実は、松阪にはそんな街並みがあるのです。江戸時代からの豊かさを維持しているその街のお話は次ページで。

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