古民家/古民家探訪

小さくても狭くても感じられる豊かさとは?(2ページ目)

住まいの豊かさとは広さや大きさだけなのでしょうか。その答えとなるような建物が三重県松阪市にありました。電信柱、電線、テレビのアンテナもない清々しい街並からは、豊かさとは何かが読みとれるようです。

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド

江戸時代の景観がそのまま残る街

電信柱と電線に加え、テレビのアンテナもない街は「御城番屋敷(ごじょうばんやしき)」といいます。まずは、その美しい街並みを見ていただきましょう。

 
邪魔なものがないと空がすっきりと広く見えます。右は上から見たところ。
2棟の長屋の周囲は電信柱の残る現代の街並みです

松阪城の南側に面して建っている「御城番屋敷」は、もともと、松阪城の警備を任務とする武士とその家族の住まいとして建築されたものです。建てられたのは文久3年(1863年)といわれていますから、築143年の家というわけです。太秦の映画村などでのオープンセットではなく、本物の江戸時代の街並みです。

石畳の小道を挟んで東西に並んで建つ2棟の長屋は、現代のテラスハウスのようなつくりです。現在では建築時の20軒から、東棟10戸、西棟9戸が残っています。東棟は桁行90.9m、西棟は桁行83.6m、どちらも平屋建、桟瓦葺で、背面に角屋(つのや)を附属しています。

「御城番屋敷」は「類例の少ない近世武士の長屋建築」として、平成16年に国の重要文化財に指定されています。また、松阪市の指定有形文化財にもなっていて、1戸を松阪市が借り受け、内部を公開しています。

現代でもいきるプラン

 
居室と裏庭から建物を見たところ。シンプルさはどんなライフスタイルの変化
にも対応できそうです。だからこそ江戸時代から住み続けられるのかも

公開されている住戸は、間口が5間で8畳と6畳が2間ずつ。キッチンと呼べるような広い調理スペースはなく流し台があるだけで、武家の家屋らしく簡素なつくりが印象的です。現代の住宅と比べると、都市部の住宅よりは広めと感じるかもしれませんが、郊外の住宅と比べたら、平屋ですし、広いほうだとはいえないかもしれません。でも、美しく豊かだと思いませんか?

印象的なのは個々の住戸ではなく、街の中心を走る石畳の小道と、美しい槙の垣根です。電信柱と電線、テレビのアンテナまでないすっきりとした街並みは、清々しさを感じます。いたずらに広さや大きさを求めるのではなく、シンプルな美しさを組み合わせてできる豊かさが、ここにはあります。

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公開されている住戸から向かいを見たところ。垣根はプライバシーを守るのにも役立っています。江戸時代の知恵でしょうか?

そして「御城番屋敷」がすごいのは、街が建築当時のまま残されているというだけでなく、実は現在でも城警備の武士の子孫の方々が住んで維持管理しているということでしょう。江戸時代が終わり明治になって武士階級がなくなっていく中、苗秀社(びょうしゅうしゃ)という合資会社をつくって、維持管理してきた地道な努力がなければ、到底かなわなかったことでしょう。住宅の断熱性などの性能はともかくとしても、美しい景観をずっと維持すつための努力には、ただただ脱帽です。

そのため、単に残すというだけでなく、昔の佇まいを残しながら現代の生活が営めるように努力されています。例えば、現代の生活に欠かせない自動車のための駐車場は、屋敷の敷地裏の一画に設けて、石畳の小道の景観を壊さないように配慮されています。

通りに面して駐車場を設けるのが当たり前の、効率を優先してつくられた現代の住宅からは考えられないつくりですが、そのプランのおかげで石畳と垣根からなる美しい小道が残っているのです。

豊かさは選択によって訪れる?

「御城番屋敷」の街並みを構成する要素は、石畳の小道と垣根に囲まれた武家屋敷らしい簡素な長屋という、とてもシンプルなもの。これなら、コーポラティブハウスという方法や、ある程度の資本力のある住宅メーカーや不動産ディベロッパーならば、現在でもつくれるのではないかと思ってしまいます。実際、そういった取り組みがされている分譲住宅も現れているようです。大切なのは美しい街にするためのプランと、それを実行する努力ではないでしょうか。

前ページの新幹線に話を戻すと、1964年といえば、日本は高度経済成長期のまっただ中。そんな時代だから、国鉄は新幹線を大量高速輸送という効率を優先した設計を採用したのでしょう。その反省からか、国鉄からJRになった現在の新幹線の車両は、席と席の間隔にゆとりを持たせていますが、5座席は開業以来のままです(一部車両を除きます)。

対して、「御城番屋敷」は、江戸時代のゆとりと美しさを街並みに残して昔のまま建っています。1964年に国鉄が別の選択をしていたら、今とは少し違った未来が訪れたのでしょうか?

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