自分の城を手に入れた喜びは大きい?
取材で注文住宅を建てた方にお会いしますが、インタビューに答えてくれた方に共通しているのは、喜びに満ちあふれた表情をしていることです。やっと完成した新居に対して思い入れがあり、わが家に愛着を持っています。自分の好みを随所に反映したわが家を手に入れた喜びがとても大きいことがよくわかります。その街に住む人たちみんなが愛着の深いわが家を大切にしていけば、街並みの美しさも維持されると思います |
一方、賃貸住宅の場合はどうでしょうか。まず、「○○沿線で徒歩10分以内」とか、「家賃12万円以内で」という立地や家賃などの条件をもとに探し始める人が多いと思います。それらの条件に合う物件の中から建物の構造や規模、間取りや方位などを検討し、住まいを決めることになります。
日本の賃貸住宅の場合は、賃借人が自分の好みのインテリアを目指してペンキを塗ったり、棚を造作したりすることは、大抵の場合、許されません。せいぜいカーテンや家具にこだわるくらいでしょう。ということは、注文住宅のように自分がつくり上げた住まいではなく、既製品の中から自分の好みに近いものを選ぶという感覚に近いと言えます。
愛着のあるわが家は大切にしたい
思い入れやこだわりを実現し、愛着のあるわが家なら、大切にしたいと思うのは当たり前のことです。暮らしているうちに家族構成やライフスタイルの変化により不都合が生じた場合でも、持ち家ならリフォームや増築が可能です。そして、リフォームをすることでわが家に対する愛情が深くなることはあっても、薄くなることはないでしょう。賃貸住宅であっても、暮らしているうちにその家について愛着が沸くことはあると思いますが、多くの人がいずれはその家を出て行くことを念頭においているはず。そうだとすれば、そもそも長く暮らすことを条件のひとつにあげて住まい探しをする人は少ないかもしれませんし、わずかな期間で次々と住まいを移転するつもりで住まいを選んでいる人なら、その住まいの将来については関心がなくても当然です。
肝心なのは愛着のもてる家に住むこと
さて、ここまで、長く暮らせる家という視点で、賃貸住宅と持ち家を比較してきました。全体的に持ち家のほうに分があった気がします。人の心理として、とても気に入ったもののほうがそうでないものより大切にするでしょうし、他人のものより自分のもののほうが愛着が沸くものです。また、実際のところ、賃貸住宅の品質という点で、持ち家を上回るものが少ないという状況も大きく影響していると感じます。
とはいえ、賃貸住宅だから長く暮らせないとも、持ち家なら長く暮らせるとも決めつけられるわけではありません。一番大切なのは、愛着をもてる家かどうかではないでしょうか。自分が暮らす家について「こうしたい」「こうだったらいいのに」という気持ちが強いなら、賃貸住宅でも、持ち家でもできるだけ妥協せずに、希望の家を熱心に求めるでしょう。そうして、見つけた家なら、愛着をもてそうですね。
以前なら、好みをできるだけ多く実現するには注文住宅を建てるしかないと考えた人が多かったかもしれませんが、近ごろでは、集合住宅のコーポラティブハウスや、リフォームすることを前提に中古のマンションを買ったり、新築の分譲マンションを購入時に間取りやインテリアを変更する人も増えています。好みを反映させるという点では、戸建てと集合住宅(マンション)との差が縮まってきており、戸建てでも、集合住宅でも、将来の変化に対応しやすいスケルトン・インフィルの設計手法を取り入れた物件が見られるようになっています。
さらに、賃貸住宅でもペットを飼えるようにしたものや、オール電化仕様にしたものなど、ほかの物件との差別化をはかったものが見られるようになってきました。そのほか、リノベーションやコンバージョンによって、さまざまなニーズに応える物件も珍しくありません。
愛着をもてる家に住み、その家を大切にしながら暮らす。そのためにも、家探しをするときは、こんな家に住みたいとイメージを描き、長く住み続けられる家をみつけてほしいと思います。