住んでみたいと思わせる居住空間が目の前に
いくら美辞麗句を並べてみても、建築だけは実際の空間に身を置かなければ理解できないことがあるという。文章だけでは表現しきれないということだが、たとえば「岡本レジデンス」の“静寂性”などはその典型と言って良いのではないだろうか。室内に一歩足を踏み入れると、安堵感に似た心地よさに包まれる。柱梁の出ないスクエアな壁、床のように平らな天井、そして大きく切り取られた開口部。壁式構造の利点が最大限生かされている。さらに、窓や照明がすべてシンメトリに配置されているからだろうか。空間に独特の気品さえ感じられる。
マテリアルも、じつに見ごたえがある。とくに水回りで使われている天盤は圧巻だ。40mmもの無垢の天然石を壁から壁まで渡し、ボウルにあたる部位をくり抜いた。自然石が醸し出す重厚感が空間に落ち着きをもたらし、肌触りも優しい。
設備にも、高級マンションならではのこだわりがある。標準仕様のAEG社製食器洗浄機は、表側に操作パネルのない仕様とし突板を用いた収納扉と同じ建具で統一感を。さらに、クローズドキッチンだからか、天井にエアコンが埋め込まれていた。
また、バスルームには地上デジタルとBS/110°CS対応の13インチ浴室テレビが設置され、浴槽に横たわった頭上にある2つのステレオスピーカーと調光ダウンライトが日々の疲れの癒しとなる。業界内の参考見学が後を絶たない、という理由が想像できよう。
目に見える空間を画像に収めることはできても、静寂性を表現することは残念ながら難しい |
住宅の空間を主と従に分けることは本来ありえない。このキッチンの快適性は他のどの居室にも劣らないはずだ |
風格漂う、まるで美術館のようなマンション
共用部のしつらえを比べるなら大規模マンションが有利か…そんなイメージは、「岡本レジデンス」を見て覆されるだろう。総戸数43戸というスケールながら、このマンションはどの物件にも引けを取っていない。プロジェクトの計画が資材高騰の前であったことが奏功し、このハイグレードが実現したという。したがって、専有部だけでなく共用部分においても、昨今耳にしがちな建築コスト高の影響を微塵も感じさせない。
それどころか、この建物は内廊下を歩いている時でさえ心地良い。マンションの内側から目に映るパティオや外の風景を、まるで作品に見立てたようなしつらえになっている。
一方、岡本の街並みは、「二子玉川」駅からの途中にある静嘉堂文庫美術館の印象が強い。風格あるその佇まいが影響を与えているのだろうか、品格を感じさせる家々が自然豊かな環境に溶け込んでいる。
そんな街に完成した「岡本レジデンス」は、美術館のような印象さえ抱いた。あくまで作品、つまり住む人の暮らしを主に。主役が引き立つよう、隅々にまで技術が結集した傑作ではないだろうか。
パティオの竹。風景の中の、模様の一部として収まっていた |
提供:鹿島建設株式会社