建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

山本卓男さんの仕事見学 住宅プロデューサーって何?(2ページ目)

ヒューマンクリエーションの山本卓男さんは住宅プロデューサーという肩書きで仕事をされています。その山本さんがプロデュースしたという八王子の五月女さんの家を拝見させていただきました。

執筆者:坂本 徹也

山本卓男さんと五月女さん
さて、五月女さんが家づくりを依頼したのは建築家でもなければ工務店でもない、住 宅プロデューサーという肩書きを持つヒューマンクリエーションの山本卓男さんで した。
いまは建築プロデュースを請け負う会社もいろいろありますが、山本さんはそ んな中にあってたった一人でプロデュースを始めたという異色の存在です。形としては、建て主から家づくりを請け負って要望を聞き、それらをまとめてコンセプトブックを作成。建築家を選び出して依頼をし、設計・施工をプロデュースしていくということですね。土地探しからすべてお願いしますという要望にも応えているそうです。

なかでも特徴的なのはそのコンセプトブック。
建て主のイメージ---生き方のスタイルや嗜好性、それまでの人生の軌跡や社会とのかかわりといったものを反映した散文詩にまとめて、BGMや色彩まで指定して建築家に手渡していく。それがクリエイティブな仕事を追求してきた建築家には、つくるべき家のイメージとして正確に伝わっていくのだそうです。
山本さんは言います。
「建築家にはこうしたコンセプトブックでイメージをキャッチできる人が多い。できない人は僕とは仕事できないですね。もちろん一般的なデータはお渡ししますよ。この人はいくつで子どもは何人とかね。それと一緒にコンセプトブックを渡して、あとは好きに質問をしてもらうということです。かなり漠然とした表現をしてますから、これって何を表現しているんですかってみなさん最初は聞かれますけど、じっくり読んでもらえれば『だいたいわかってきた』と言ってくれますね」
五月女さんの家づくりをしたときに書かれた山本さんのコンセプトブックのほんの一部をご紹介しましょう。「五月女さんの明日」と題されたそれは次のように始まります。

大地と魂の回帰

やがて森は広がり
そこは住宅地の端ではなく
森の一部に帰る
庭木は森の木々と梢を重ね
緑の風は一気に駆け抜ける
森を離れてどれほどになるだろう
今、大地と共に魂は森に帰る
生命のギャラリー

友情や新しい出会いは
遠くの山並みや森の梢からやってくる
ときには入道雲を背景に
自分の絵を持ってきたり
花器や茶碗を置いていったり
手作りの草餅で御茶を飲んだり
ここにあるのは芸術と
風に乗って現れる沢山の輝く命
メーン・ダイニング

寒いときには厚着をして
雨の日にはオーニングを出して
さびしいときには音楽をかけて
どんなときにもデッキのテーブルが
我が家のメーン・ダイニング
キーワード

光と風、そして絵としての窓
正しい炎の暖炉(センタータイプ)
小さな個室、豊かなリビング
断熱、遮音を兼ねる美しい壁面収納
見えるけど、聞こえないピアノ練習
ホームコンサート
素敵なお風呂


いかがでしょう? こうした詩文に鉛筆のやわらかいタッチで描かれたスケッチが添 えられて、それが一種の依頼書として建築家の手に渡るというわけです。これでイ メージがかなり固まったという人なら山本さんと組んで家づくりができる人かもしれ ません。

「自分でも表現できないような、家づくりに対する深い思いが建て主にはあるわけですよ。それを建築家はなかなか聞いてくれないし、聞かれたからといって言葉にできるものでもない。
なぜならその人にとって一番大事なものというのは、もしかしたらプライドであったり、心に残っている過去の出来事だったり、いろんな形をしているからです。だからそれを私がコンセプトブックに凝縮していくと。何LDKが欲しいとか何畳の和室が欲しいとか、玄関はこうだとか、設備はこれがいいとか言っちゃうと全然つまらなくなるだろうなと思うんです。 的を突いていながらも建築家の想像力を縮めない、翼をいっぱいひろげてもらえるように書いていく。毎回、それをひねり出すのにすごい苦労してますよ」と山本さん。
ちなみにこれを受け取った建築家の前田紀貞さんは、じっくり5回ほど読み込んだあと、一発で建て主と山本さんの両方が納得する基本プランを出してこられたそうです。プロの仕事を感じさせる話ですよね。

聞けば山本さんのプロデュース料は総工費の5%。その内訳としては、どの辺の場所 にいくらぐらいの予算をかけて建てるかという基本構想の策定が1%、次にコンセプ トの策定が2%、のこる1%はそのあとの完成までのプロセスの全体管理だとか。
それは一見余分な出費のようにも思えますが、本当に自分の「望む家」のイメージを建 築家に伝えていくのはなかなか大変な作業でもあり、自分のことは自分では見えてい ないことも多いもの。第三者の視点から冷静に分析してもらうことはけっして無駄で はない。そしてさらに自分に一番合った建築家との出会いをつくってもらえるとした ら、高くはないというのが私の実感です。
 

山本卓男さんと前田紀貞さんが組んだ
代官山コラボレーションハウス!


山本さんが前田紀貞さんと建築雑誌『Lives』と組んでスタートしたコーポラティブハウスのプロジェクトが進行中です。これは東京の代官山に5世帯のミニマムなコーポラティブハウスを建設するというもので、すでに4世帯の入居希望者が集まっているとか。人気の代官山とあって話題性も人気も上々なのですが、いまのこりの1世帯を募集中だそうです。山本さんが自分の足で歩いて探し当てたという土地は抜群の好ロケーション。都心にこだわる若い夫婦にとっては絶好の機会かもしれませんね。

なんでもプロデューサーの山本さんと1戸1戸違う建築家が組んで、間取りも広さも デザインも、建て主の要望を反映した一戸建て感覚の集合住宅にするとか。なかなか 興味深いプロジェクトです。全体を監修する立場として参加する前田紀貞さん(前田 紀貞アトリエ)は言っています。
「山本さんはウソのない人。真剣な人にはほんとに真剣に応えてくれるはずです。全 部違う建築家がつくるという戸建ての集合体のようなコーポラティブハウスで、全体 をまとめるのはそうとう骨が折れそうだけど、新しい分野だけにやりがいはある。い いものを提供していきたいなと思います」
気になる予算の大枠としては1人あたり4000万円から8000万円ぐらい。予算に応じて 専有の床面積が決まるとのこと。建物全体の大きさは地下1階地上3階だそうです。



代官山コラボレーションハウスのホームページ
前田紀貞アトリエ
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