都市型の新しい近所づきあい
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ゼロワンオフィスの建てたコーポラティブハウス第1号 「J-alley」では、住人たちが定期的に中庭に集まって親睦を深めあう催しを開いています。この日は誰が言いだしたのか、秋の味覚の代表選手「さんま」を肴に、おいしいお酒を酌み交わそうという集まりでした。
コーポラティブハウスのよさのひとつは、住人たちの間にこうしたコミュニティが形成されることですが、パーティは必ず出席しなければならないというものではなく、都合のつく有志だけが出ればよいという、きわめてゆるやかで自由な集いとなっています。都市型の近所づきあいの新しい形ということでしょうか。コーポラティブハウスという建築形態は、それがうまく機能するような環境を生むようです。分譲マンションなどと違って、建設期間の長いコーポラティブハウスでは、住民同士が何度も集まって会合を持つ必要があるため、その間に親しくなる機会ができるわけですね。
アメリカの家庭に見られるような風景
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そんな「J-alley」の中の1軒、稲坂邸を見せていただきました。やんちゃ盛りの男の子と元気いっぱいのヨークシャーテリアがいる稲坂家。奥さんは「すっかりきたなくしちゃって…」と言われますが、どうしてどうしてなかなか素敵にお住まいの30代夫婦の住居です。
アメリカに長く留学していたという奥さんのお気に入りは、玄関で出迎えてくれる大きな初老の紳士の人形。「アメリカの雑貨店などに行くと、よくこうした大きな人形が置かれてるところがあるんです。その雰囲気を再現したかった」と言う彼女の趣味にしたがって、室内にもアメリカンタッチの明るくてライトな感覚が溢れています。
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たとえば、玄関から続く廊下の先にあるリビングへのトビラには、アメリカ風の装飾が施された白い木製ドアが、そしてその内部のキッチンにもアメリカの家庭に見られるような白タイルと木を組み合わせた造りが取り入れられています。キッチンはアメリカの雑誌に載っている写真をもとに、担当した建築家が苦労して再現したもの、木製ドアはご夫婦がこだわって探し出された一品だそうです。
よけいなものを持たない、置かない暮らし
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リビングはいわば何も置かないリビング。一方の壁にテレビなどのAV機器を集め、もう一方の壁に年代物のソファー(これまたアメリカのホームドラマに出てきそうなイメージ)を置き、その間は子どもや犬たちと一緒に、おとなたちもすわって使う“空”間になっています。
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もちろんあくまでも子どもが小さいうちはという配慮なのですが、このスッキリ感は子どもだけでなく、大人である私たちにとってもストレスのない、フリースペースであるように思われます。ここは床も足にやさしい、やわらかいタイル。子どもにも犬にも、そしておとなたちの身体にとっても負担がありません。
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隠しトビラから行くベッドルーム
そしてソファのある側の壁は、すべてが書棚。書棚といっても、小物や雑貨は十分置けますから収納としても立派に機能しています。コーポラティブハウスのよさのひとつには、こうした収納の工夫がギリギリまで検討されているという点がありますよね。コーポラ利用者たちの多くは、建築家とともに収納について議論を重ねるからでしょうか、以前使われていたタンスなどの家具を処分して、「よけいなものを持たない」という覚悟を胸に移ってこられるようです。
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さて稲坂邸の大きなサプライズは、この書棚の一角が隠しトビラになっていて、その奥の部屋に通じていること。そこは玄関に続く廊下からも入れる寝室への通路なのですが、それをわざわざ廊下に回らなくても、ここから直に行けるようにしたわけです。なんだか古い洋館にある隠し部屋のようでワクワクしますよね。
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しかしよく考えれば、友だちを呼んでパーティなどを開くときには、こうしたプライベート空間とセミパブリック空間との関係性を断ってしまう仕掛けがあるのは便利なことかも知れません。廊下にある寝室へのドアに鍵をかけてしまえば、そこから誰かがプライベート空間に迷い込むということもなくなるわけですからね。
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寝室は、いまは川の字に寝ている親子3人のための空間ですが、ここには中間に引き戸があって、子どもが大きくなったとき区切って個室にできるようになっています。そういう形になったとき、この寝室に通じるドアが2箇所あることはとても重要な意味を持ってきます。限られたスペースにいかにして複数の機能性を持たせ、家族の生活形態が変わってからも恒久的に使えるようにするか、考え抜かれたプランだと思いました。
◆「J-alley」の他の部屋はこちらから↓
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