知的な文化人ならではのインテリア
さて、縦長のステンドグラスからの光が美しい階段から2階に上がると、中庭に面してロの字状に配置された部屋が並んでいます。時計回りに、三女の部屋、主寝室、テラス付きの婦人室と次女の部屋、書斎、長女の部屋、三男の部屋……長男と次男は?と思いますが、ここには説明がありません(見学が許されていない3階にあるのでしょうか?)。
調度類が何もないので今はただの広い空間ですが、窓の装飾の美しさや各部屋に置かれたマントルピースからして、当時としては最高のセンスと快適さを追求したインテリアだったことを思わせます。また、書斎には軍人らしからぬ大きな書架が残り、利為が知的な文化人だったことを偲ばせます。
さらに、廊下の窓から見える屋根には3つの尖塔があって、そこだけを見るといつか見たイギリス映画の名シーンがよみがえってきます。あれは中学時代にひとりで見に行ったスザンナ・ヨーク&ジョージ・C・スコット版の『ジェイン・エア』だったかな…。
続いてさらに時計回りに行くと、広いホールのような場所に出ます。そこまでがインテリアに気を配った家族のプライベート空間だったのに対し、こちらはやや殺風景といってもいいほどサッパリした空間。ここはどうやら軍人たちを集めて会議を開いた場所のようです。
そしてこれに続く形で和室が3つ。チューダー様式にこだわって建てた家にもかかわらず、こうしてきちんと和室をつくったあたりは、やはり「寝るときは和室」を望む客人が多かったからでしょう。前田邸にはこの洋館以外にも和館がありますが、そちらはふだんの生活には使われず、ほとんど海外からの客の接待用だったそうです。
前田藩の最後の栄華を示した前田侯爵邸でしたが、当主の利為の戦死後は連合軍に接収され、極東軍司令官の官舎として使われたのち、1967年には東京都近代文学博物館に衣替えして一般に公開されるようになりました(2002年に廃館)。今は東京都有形文化財として都が管理しています。また、和館のほうはまだまだきれいで十分使えることから、申し込めば茶会などの集まりに貸し出されているそうです。
■「旧前田侯爵邸」を紹介しているサイト↓
ぶらり重兵衛の歴史探訪
東京紅團
■ 旧岩崎邸のレポート