あの前田利家の16代目、利為の家
五月晴れの佳日、駒場にある旧前田侯爵邸に行ってきました。イギリス後期ゴシック様式の流れを引くチューダー様式のこの洋館は、加賀前田家の16代当主・前田利為(としなり)の本邸として1929年(昭和4年)に建てられた名建築です。前田家といえば加賀百万石として有名な富裕藩主、お金に糸目を付けず当時の欧州建築の粋を集めて建築されたことが容易に想像できる豪壮にして華麗な西洋館でした。
駒場東大前と東北沢を結ぶ道の途中にある駒場公園の入り口を入りすこし行くと、ぽっかり開いた高い樹木のない空間にこの建物があります。そこだけを切り取って見るとまるでイギリスの地方貴族のお城のよう。異空間への小旅行の期待感が高まってきます。
ここだけイギリス?の異空間
旧前田侯爵邸は玄関ポーチが特徴的。その扁平アーチはチューダー様式ならではのものだそうです。横一列に並ぶのはちょっとおっかない顔をした猛獣の彫像、言ってみれば狛犬やシーサーなどのような「魔よけ」の一種なのでしょうか。
外壁は当時流行したスクラッチタイル貼り。アクセントに大華石を用い、屋根は銅板葺きのマンサード屋根と呼ばれる寄せ棟造りという落ち着いた雰囲気の仕様です。建物は鉄筋コンクリート造で地上3階、地下1階ということですが、見学できるのは1-2階のみ。玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替えて入ります。
入ってすぐは大きなエントランスホール。寄せ木張りの床と漆喰の壁が和と洋のみごとな調和を見せています。右手にはテラスに面した心地よい旧応接室があり、それに続いてサロンが2つ、いっとう奥には大食堂と小食堂が並んでいます。これらは要人を招いてのパーティ時には一連なりの空間として使われたのでしょう。2つのサロンと2つの食堂は、階段ホールをグルリと取り囲むようにして配置されています。
建築当時、陸軍中将だった前田利為は「ぜいたくすぎる」との批判に対して、「外国との体面上、これぐらいは必要」と言ったそうで、ここはいわば海外からの貴賓客をもてなす迎賓館として建てられたとのこと。それゆえ内装には王朝風の装飾や大理石のマントルピース、壁にはフランス産の絹織物や壁紙が使われ、う~むお金がかかっているなと思わせる印象です。
また、外国人の目を意識してか、インテリアの一部に唐草に雛菊をあしらった文様なども見られ、ここでも随所に和と洋の融合が使われています(設計は、東京帝国大学教授であった塚本靖と担当技師の高橋禎太郎が担当)。
利為は芸術を愛し、美術工芸・書籍などの収集に凝った文人で、本当は外交官になりたかったのですが、前田家の当主としては軍人の道を選ばざるを得なかったのだとか。ちなみに彼は太平洋戦争中の昭和17年9月、ボルネオ沖で消息を絶ちました。
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