建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

「狭きことは楽しきこと哉」の小さな家 納谷学+新さんの千歳烏(2ページ目)

納谷学+新さん(納谷建築設計事務所)の千歳烏山の家のオープンハウスに行ってきました。建築面積40.5平米は久々の小さな家。ですがとても楽しくシンプルライフが実現できそうな一軒です。

執筆者:坂本 徹也

一粒で二度おいしい空間

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ロフトのあるリビングの風景

階段を登って2階に上がってみましょう。2階は1階の約2倍のサイズ。ここは敷地が83.56平米という狭小地のうえ建ぺい率が50%というきびしさのため、この形は必然なのですが、それがかえって「シンプルライフを突き詰める」ためのリアリティを生み、潔さを感じさせます。

階段は2階のほぼ中央に位置し、これを境にリビングと寝室とに二分されています。そしてこの2つを繋ぐブリッジにキッチンを持ってきました。廊下兼キッチンというわけですね。階段部を挟んでキッチンの反対側はインナーテラスになっています。このテラス以外はすべて間仕切りのない一室空間、全体が同じ空気で繋がっています。また、テラスにも同じ床材がそのままに使われるそうですから、その印象はますます強くなることでしょう。

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寝室に向かう廊下がキッチンにもなっている

さらに寝室側から上がるロフトが、キッチンの上部を通ってリビング側に張り出しています。つまりリビングの天井は約40%が低くなっていて、ひとつの空間が違う機能を併せ持つ恰好になっているわけです。これがまた、リビングのデザイン上のアクセントともなり、一粒で二度おいしい気分を味あわせてくれます。
こんなロフトをつくっても納戸以外には使い道がないじゃないのと思われる人もいるでしょうが、人間、年をとるとしだいに一人でいたくなる時間が増えるものなのです。自分だけの「秘密の部屋(DEN)」の愉悦、男性ならこの感覚、わかりますよね。

緑を映し出すピクチャーウィンドウ

寝室からキッチンを望む
高い位置にあるロフトの入り口

それにしてもこの一体感が醸し出す広さは得がたいもの。とても延床面積61.50平米(ロフトは別)とは思えません。しかもそれぞれの空間がしっかり機能しながら主張もしている。ロフトはご主人の隠れ家的なDEN、1階は奥さんの個室としても使えますから、この限られた面積にゆったりと生活空間を取ったうえ、夫婦それぞれの空間まで確保したわけです。
夫婦二人の生活にこれ以上何が必要かと言われれば、とくに何もとしか答えようがありません。食べて眠って、お風呂に入って、自分だけの自由な時間を過ごす。そんなシンプルでモダンなスローライフが目に見えるようです。

テラスから見える木々の緑
リビング側の借景はこんな感じ

さらに、白い壁にぽっかりと開けられた開口部から見えるのは隣のお寺の庭の樹木と空。これは「美しい風景が得られる場所」だけを切り取った、借景用の窓=ピクチャーウィンドウということでしょうか。
まさに俗世から離れ自然界の中に住むという感覚ですが、この場所でしか得られない環境をうまく取り込んだのはさすが。これだけでも駅から15分歩いて帰る価値があるというものです。これらの窓は、夫婦が暮らすこれからの20年30年の季節の移り変わりをずっと映し続けてくれることでしょう。

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寝室から見えるのも、ただただ緑

設計監理:納谷学+納谷新/納谷建築設計事務所
構造設計:かい構造設計
施 工 :高石建設

構 造 :木造、地上2階+ロフト
建築面積:40.50m2
延床面積:61.50m2 ロフト階13.72m2

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