建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

これぞデザイナーズマンション18

植木健一さん(nSTUDIO)が設計した自由が丘のマンション「Y's Jiyugaoka」を見てきました。形状の異なる室内空間の組み合わせが建物の表情に豊かさを与えた意欲作です。

執筆者:坂本 徹也

植木健一さんのY's Jiyugaoka

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シルバーの壁面がモダンで都会的な印象を放つ「Y's Jiyugaoka」

東横線・自由が丘駅から歩くこと5分。閑静な住宅街の一角に植木健一さん(nSTUDIO)が設計した「Y's Jiyugaoka」はあります。このあたりは高い建物のない静かな住宅街なので、このデザイナーズマンションも2階建ての低層階マンションです。

外観を見ておや?と思ったのですが、1階と2階の開口部の位置にすこしばかりズレがある。1階と2階はきっと部屋の配置が違うのかなと思っていたら、外壁の黒のトーンも縦と横で微妙に違う…。
「この集合住宅は、直方体の1階プランの上に、その一辺をズラすという操作で得られる平行四辺形のプランを重ねた構成をとっているんです。これは北側のいびつな隣地境界による斜線制限をどうクリアするか考えた末の苦肉の策だったのですが、結果的にこの建築の内外に多様な視覚の変化を生み出すことになりました」(植木さん)
なるほど、たしかにこのズレが、建物に四角四面ではない豊かな表情をつくり出しているようです。

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東側隣地より見る1階と2階の壁のズレ、不思議な感覚

植木さんの案内で室内を見せてもらうと、これが一風変わったデザイン。というのも部屋が奥(庭側)に行くほど狭まっていく形状になっているのです。
「玄関から開口部に向けて狭まっていくタイプの部屋と、逆に玄関側から広がっていくタイプの台形の部屋が交互に組み合わせてあるんです。その順序が1階と2階で違う。だから外から見たとき、開口部の位置がずれて見えるわけですね」(植木さん)
こうしたプランニングは、均一になりがちなマンションの室内に視覚的なパースペクティブのズレを生み出し、外部とのつながり方や住まい方に多様性を生じさせました。また、そこに住む人によけいなストレス(閉塞感)を与えないというか、少なくとも四角四面のスペースにいるよりも気持ちが解放されるような気がします。

外部に面してあるキッチン
アクリル板で仕切ることもできる

室内に通る真っ白な光の道

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インナーテラス側からキッチンを望む、快適な小空間

最初に見た狭まっていくタイプの部屋は、開口部側にキッチンとインナーテラスがあり、水回りは玄関側のガラスで囲われた小スペースと壁の内部につくられています。そしてこのガラスの壁と開口部を通して真っ白な光の道ができ、部屋に大きな開放感が生まれているのです。

ちょっと女性的なやさしさを感じさせる空間とでもいいましょうか。キッチンには屋台風のカウンターがあり、急ぎの時にはそこで軽食をとることもできそう。人ひとりが座ればいっぱいという小さなインナーテラスなのですが、住まう人がそれぞれのライフスタイルに合わせて自由に使える、楽しいスペースになりそうです。しかもそこは、開閉可能な透光性のアクリル板の間仕切りが付いていて、閉じることができる。つまり小さいながらも、仕切られたもうひとつの空間というか最小限の個室が得られるわけですね。グリーンの小鉢をたくさん育てるもよし、パソコンコーナーにするもよし、もちろん洗濯物を乾かすのもよし…。

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インナーテラスから玄関と水回りを望む、光の道が見える

もういっぽうの玄関側は、あえて接着していない間仕切りを使った洗面室と、壁の奥に設えられた機能的なユニットバスから成っていますが、ここはここで小規模マンションとは思えないような開放感があって、なかなかGOOD。基本的に一人暮らしを前提につくられた居住空間ですから、誰に遠慮することもないということですね。玄関とバスルームとの間にあるトビラは折れ戸になっており、これをたたみ込んでしまえば、部屋はさらに一体化した空間になるのでした。

続いて、もうひとつのタイプの部屋を見てみましょう

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