ついに実現したデザイナーズ住宅の競演
納谷兄弟(納谷建築設計事務所)、若松均(若松均建築設計事務所)、みかんぐみ、石黒由紀(石黒由紀建築設計事務所)という今をときめく新進建築家4人がコラボレートした建て売りデザイナーズ住宅「意匠街」のレポートの第2弾は、みかんぐみの作品からです。アグレッシブな仕掛けのある家
みかんぐみは、NHK長野放会館の設計を機に加茂紀和子、曽我部昌史、竹内昌義、マニュエル・タルデッツによって共同設立された設計事務所。グループホームや主張のある保育園、ライブハウスなど意欲的な作品で知られていますが、この家にもそんな彼らのアグレッシブな仕掛けがしっかり込められていました。
まずはその外観ですが、地下部分にあたる道路面の壁は黒、その上の外壁は北側が黒、それ以外は白というツートンカラー。メリハリのある表情をしています。地下部分の壁に黒が使われているのは、道路に面する3軒に共通しており、これは最初から意図されたもののようです。
門扉からすこし余裕があって地下のエントランス。そこから先は地下駐車場と2つの小部屋があります。ひとつはホビールームということですが、スキップフロアが使われているため1階との間に階段が生み出す空間があってとても開放的な印象です。寝室にしてもいいですが、エントランスから丸見えになるため、やはりAVルームやちょっとしたワークスペースが適当という感じでしょうか。いっぽうの小部屋は天井高の確保された使い勝手のよさそうな収納になっていました。
室内の変化がもたらすストーリー
エントランスから数段上がると、そこはこの家の中核ともいえるリビング。南面に大きな開口部を持ち、そこからそのまま中庭のようなテラスに出ることができます。そしてこのリビングからさらに数段上がった場所にキッチン+ダイニングとバスルームがあります。
つまりリビングとダイニングは、空間的に一連なりでありながら高低差があるというわけですね。これが視覚的にどんな効果を生むかといえば、やはり空間の“ゆとり”でしょう。ここからここへという視線の移動が室内に変化を生じさせ、生活の中のストーリー展開を示唆しています。
ダイニングで食事を済ませたら、つぎは一段低くなった光のリビングへ。人はきっとそれを自然な流れと感じるはずですよね。リビングとダイニングは床が同じ黒で統一されているのに、あえて段差の部分を白壁にして2つの空間の繋がりをいったんうち切っているように見えるのは、やはり計算あってのことでしょうか。
キッチン裏に黒壁で隠されたバスルームは、淡いブルーグリーンのタイルを使った気持ちのいい空間。パウダールームと浴室との間仕切りがガラスのため、閉ざされた空間にであるにもかかわらずとても明るくオープンな印象です。
踊り出す階段
特筆すべきは、この空間の階段の見え方の美しさでしょう。リビングからは下のエントランス(ガラスで仕切られている)から、上のダイニング、さらにすこし上がって踊り場を経て折りかえし、2階へと続いていくコンクリートの階段の様が見えますが、ここにもさきほどの視線の移動や流れが生じて、目に楽しい仕掛けとなっています。
さてこの階段を上がると、2階は完全なプライベート空間。2つの個室、バルコニーのある子ども部屋と、主寝室があります。角をとって北東両方向に開いた主寝室の窓からは自然保護林の緑と用賀の町並みが見えます。これがなかなかGOOD! 「意匠街」はこの自然保護林が目の前という好立地なのですが、各建築家ともそれを十二分に意識して、借景として室内空間に取り入れていました。
リビングの仕掛けに対して、こうした個室はややシンプルすぎるような気がしますが、ここはよけいなことを考えずにゆっくり身体を休める場所ですから、これ以上のものは必要ないかもしれません。地下にホビールームがあるため、けっこう大家族にも対応できる一軒のように思いました。
■設計監理:みかんぐみ
■構造設計:多田脩二構造設計事務所
■施 工 :株式会社佐藤秀
●構 造 :RC造、地下1階、地上2階
●敷地面積:105.73m2(32.08坪)
●62.63m2(18.93坪)
●延床面積:157.59m2(47.81坪)