2階に並ぶ“不揃いの林檎”たち
キッチンとこの大空間を隔てている壁はじつは階段の裏。限られたスペースを機能的な要素に組み入れてじつに有効に使っているわけですね(これがほんとの裏技?)。この階段を使って2階に上がると、こちらはプライベートな生活空間ということで、4つの個室とバスルームが“不揃いの林檎(スモールアップル)”のように並んでいます。とくに最初のスモールアップルは、1階の大リビングに突き出すような形であり、障子を開くとリビング全体が見渡せるようになっています。しかもこの窓は全部開放できるため、こことリビングは一繋がりの空間でもあるといえる。いわゆる物見台のような恰好で、コンサートの時にはきっとVIP席になるはずです。いいですよねー。
他の3つのアップルは、不規則に曲がりくねったツリーのような廊下の左右に振り分けて配置されていますが、この廊下に立つと、なぜか子どもの頃によく行った遊園地のマジックハウスを思い出してしまいます。角ごとに鏡が置かれていて、位置関係がわからなくなってしまう遊び場施設ですね。ちょっとだけ迷路に迷い込んだような空間、きっと住んでいて飽きが来ないことでしょう。
変形敷地が住宅建築をおもしろくする
ベランダがある
ホールを見る
これは敷地の形状に合わせて空間を割り振ったということでしょうが、もちろん漠然とそうしたわけではなく、作り手のきちんとした計算と設計意図が読みとれます。第二のアップルは中庭に面したベランダのある部屋、続いて水回りを挟んで道路側に2つの個室が並んでいますが、いずれも形も大きさも不揃い。使い勝手よりも、アクティブに住むことの楽しさを優先させたことがわかります。
このおもしろさは、この敷地でなければけっして得られなかったもの。そう考えると、最初は絶望的と思われた変形敷地が俄然、住宅建築をおもしろくする重要な要素のように思えてきます。こうした変形敷地はまだまだ都内にたくさん残っているはず。建築家たちの知恵と技と意欲で、そうした土地を最高の形で甦らせていってほしいものです。
■設計監理:archi+air/古谷清寿、二瓶渉
■施工 :ティエイチモリオカ
■プロデュース:ベースメント
●敷地面積:137.62m2
●延床面積:137.06m2
●構 造 :木造(一部鉄骨)・地上2階建て
■ベースメントがプロデュースした他の作品↓
ベースメントの「橡の家」
happy-projectで家づくり
線路脇の変形敷地に建つ家
ベースメントのプロデュースで建てた白い家