空間が伸び上がりながら連なっていく
階段を上がって2階に出ると、右手には子ども部屋と納戸があり、左手にはやはり格子戸を開けて入るキッチン+ダイニング、そして数段上った先に、畳敷きのリビングが広がっています。ここがこの家で唯一、大きな広がりを持つ空間ということですが、視覚的には収納やどこかに繋がっていく階段などが複雑に重なりあい、この家が複層的で多様性に富んだ住宅であることを感じさせてくれます。う~ん、何がどうなっているのだろうという、わかりにくさの魅力とでもいいましょうか。
リビング(というか居間)にあるのは、昔商家などに見られるような長火鉢。和服姿で煙管をくゆらせてみたくなってしまいます。これも和風モダンのひとつの形といえるのでしょうが、住まい手が一体どんな人なのか、ちょっとお会いしてみたくなりました。
さらに居間から少し上ったところに奥さんの小さなワークスペースがり、そこから上階へと続く急な階段が続いています。あれ、こんなところにも階段がある、これはどこに続くんだろうという興味から足をかけて昇ってみると、その先はどうやら3階にあるどこかの個室に繋がっているようでした。
言い忘れましたが、2階の居間と3階の間に隠し部屋のような小空間があって、この家のテーマのひとつである書物や版画の大切な保管場所になっているようでした。建て主だけが知るこうした隠し部屋の存在は、やはりオーダーメイドならではの創意工夫ということですよね。
それにしても素晴らしいのは、壁や床や建具にふんだんに使われている八溝杉のかぐわしい香り!珪藻土の壁とともに、自然素材の質感や気持ちよさが全身に伝わってきます。
小さな空間の積み重ねなのに閉鎖的ではない!
続いて3階を見ると、ここは完全なプライベート空間。階段室を境に、右手(北)にバスルームとクローゼット、左(南)にはウォークイン・クローゼット付きの主寝室があります。さっきの居間から続く急階段の先はどうやらこの主寝室に続いていたようですね。それにしても、この収納スペースの多さ、大きさはどうだ! 主寝室の壁一面にも余裕たっぷりの壁収納が付いていました。また、主寝室の開口部には上部がテーブル状になった収納が付いており、そこでちょっとした書きものや読書ができるようになっています。ふんだんにある蔵書とそれに親しむための場所、それがこの家にはいたるところに隠されているようです。
ここから上は、段違いになった階段を使って上る屋上テラスがあり、その先には文京区ならではののどかな住宅街から飯田橋までが見渡せる風景が広がっていました。
最後に言い添えておきたいのは、これだけ多くの小空間を見事に組み合わせた設計力もさることながら、そうした小空間の積層体でありながらまったく閉鎖的なイメージがないということ! 階段室は大きな吹き抜けとなって各空間を繋いでいるし、いたるところに設けられた小窓や隠し階段を通じてそれぞれが同じ空気を共有している。シンプルでわかりやすい住宅もいいけど、ときにはこうしたユニークな住宅建築に出会えるのもウォッチングの大きな楽しみですよねー。
■意匠設計:鈴木アトリエ(担当:鈴木信弘)
■構造設計:K-zero1WORKSHOP(担当:松井晃一)
■施 工 :大東建設(担当:鈴木雄司)
●構 造 :RCベタ基礎/地盤改良杭 地上3階建
●敷地面積:97.33m2
●延床面積:218.15m2
◆鈴木アトリエの作品一覧↓
凛とした家
坂の上の黒い箱「篠原の家」
家族が個々の独立性を保つ家
崖地の下に建つ上池台の家