とくに、ワイン好きの人にとっては、ワインの絞り粕から造る「マール」や「グラッパ」に親しんでいるから、「カストリ」といっても、ぶどうの風味や個性的な味わいを楽しめるちょっと通好みのお酒といったイメージかもしれない。トラットリアやビストロでは、女の子だって、食後にマールやグラッパのグラスを手にする姿をちょくちょく見かけるくらいだから。
なかにはナントカ・コンティやシャトー・ナニガシの「カストリ」みたいに、通常の金額では手に入らない「幻もの」があり、高級イメージさえ感じることがあるほどだ。
日本酒の「カストリ」だって、捨てがたいものがある。
昔から清酒つくりが盛んであった北部九州地方では、田植えがすんだお祝いのときに、かならず清酒の粕取り焼酎で乾杯をしたという。その焼酎を『早苗饗(さなぶり)焼酎』と呼ぶのだそうだ。もともとは清酒の粕にもみがらを加え、「せいろ型」の蒸留器で造ったものらしいが、今では清酒の粕に水を加え再発酵蒸留させる「モロミ取り」が増えているとか。
今でも昔ながらの伝統を引き継いでいるのが、大分、八鹿(やつしか)酒造の『粕取り焼酎 きじ車』だろう。
【 八鹿 『粕取り焼酎 きじ車』 】 |
玖珠(くす)盆地の清らかな水で醸される、スムーズでなめらかな辛口清酒の個性を十分に残した味わい。派手さはないが、じんわり美味しい焼酎だ。
アルコール35パーセントだけど、角がとれたまろやかさは15年もの熟成からくる。ビン詰年1987年と裏ラベルに記載されているところがなんとも奥ゆかしい。
マールやグラッパではここまで熟成させたものはあまりないし、ウイスキーでも15年ものといえば、それなりの金額になるはず。もし、もしも仮に、「たまたま蔵に残っていたものがいい熟成をしたので、それを売り出した」のだとしても、720mLが2,000円でこの出来栄えというのは、やっぱりかなりのお買い得というほかない。イヤないい方になるが15年間出荷しないということは、15年間売上にはなっていないのだ。蔵にやる気と体力がないとできない。
八鹿酒造 営業本部長 板井さん 元金融関係のエリートサラリーマン! |
銘柄名の『きじ車』は、木彫りの雉に車を付け、紐で引っぱりながらあそぶ民芸品で、大分に百年前から伝わる手彫りの郷土玩具。農家のおじいさんが「ほうの木」を「なた」一本で手造りし孫にあたえたという愛情こもった手造り玩具だ。
素朴だけど不思議と想像力をかきたてるあそび道具が、コンピューターゲームよりも、実は脳みその奥を刺激してくれるように、昔ながらの本物の「カストリ」が、舌と心をじんわりと刺激してくれるかもしれない。
粕取り焼酎 『きじ車』 720mL 2,000円 八鹿酒造株式会社 大分県玖珠郡九重町大字右田3364 電話 0973-76-2888 |