にぎり以外ではこれをぜひ!
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「オコゼのにぎり」。「オコゼづくし」の一品です。 |
にぎり以外の一品料理では、「アワビのバター焼き」(6,300円~)と「タイのカブト焼き」(8,400円~)、「オコゼづくし」(1人前7,350円~)は欠かせませんね。
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「アワビの肝」です。このままにぎりにしても最高です。 |
夏の時期、大原産のマダカアワビを惜しげもなく使った「アワビのバター焼き」は、あり得ないほどのやわらかさ。まるで自分の歯が切れ味鋭い刃物にでもなったかのような、そんな錯覚さえも憶えます。噛み締めると同時に豊富なゼラチン質が歯にしっとりとまとわりつき、喉越しまでもしーっとり。飲み込んでしまっているのに、その残像が喉の奥からなかなか消えていかないのです。白眉は、海のミルクを思わせる甘~い香り。これがとにかく断トツですね。このミルク香にさらにバターの香りが加わるのですから、もう説明のしようがありませんね。ボクが食べた中では、2003年7月6日のもの(キロ¥17000、重さ約800g)が最高でしたね(値段は大きさによって異なりますが、小さなもので6,300円くらいです。この日は27,200円)。
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「タイのカブト煮」。特に春の時期がおいしいです。 |
佐島産のマダイを使った「タイのカブト焼き」は、藻塩の持つ穏やかな旨みが、タイに秘められている旨み、甘み、香り、これらを全面的にバックアップ。「塩が旨みを呼ぶ」、まさにそんな感じですね。「目の下のゼラチン質」、「目のまわりの白身」、「頭部の白身」、「口のまわりのゼラチン質」、「頬のまわりの白身」に「カマ部分の白身」。箸だけで食べていたら本当のおいしさなどわかりません。手を使って豪快にしゃぶりついた人だけが、真の喜びを得ることができます。ちなみにボクが特に好きなのは、「目の下のゼラチン質」と「カマ部分の白身」です(写真は「タイのカブト煮」(8400円~))。
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心地よい噛み応えの「オコゼの胃袋」。 |
春先ならば「オコゼづくし」がおすすめです。入船で使うオコゼ(佐渡産)は、丸のまま揚げられるような小ぶりのものではなく、1kgくらいある大ぶりのもの。これをまるごと1匹使い、「お造り」、「卵の花煮」、「肝煮」、「胃袋の塩焼き」、「唐揚げ」、「にぎり」、「味噌汁」、というように、とことん堪能させてくれるのです(1匹で約3人前)。
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「オコゼづくし」の最初の一品、「オコゼのお造り」。 |
まずは「お造り」を食べてオコゼそのものの味わいを。淡泊でありながら、プリプリとした歯応えの中にほのかな甘みと深みのある上品な旨みが潜んでいます。ポン酢でいただくことで、その味わいが一段と引き立ちますね。
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「オコゼの肝煮」。魚の肝では一番おいしいと思います! |
内臓系の旨さが際立つのもオコゼの特徴。特に「肝煮」には度肝を抜かれます。これまで口にしてきた魚肝の中でも群を抜く存在。もちろんアン肝やキンキの肝よりも美味。胃袋もコリコリとした食感が実に心地よく、噛めば噛むほど味が出ます。クセになる味わいですね。
オコゼといえばこれ!
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「オコゼづくし」の主役ともいえる「オコゼの唐揚げ」。 |
白眉は何といっても「唐揚げ」です! 入船には基本的に揚げ物のメニューは存在しませんが、これだけは例外。「唐揚げなしのオコゼづくし=メインなしのコース料理」といっても過言ではないからです。その旨みは、生で食べるよりも数倍昇華されている、というか旨みそのものが違う感じです。骨まわりの身や皮の部分が特に美味。この大ぶりのオコゼ(唐揚げ)の旨みは、はっきりいってトラフグの比ではありません。唐揚げの最高峰に位置する一品だとボクは思います。
1貫1貫真剣勝負!
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マグロのことを語りだしたら止まらない、ご主人の本多克己氏。 |
ボクが入船に伺うのは、いつもだいたい2時~3時の間。お客さんの少ない時間帯に行き、1対1の真剣勝負をします。おいしいのは当たり前。しかし、同じ種類の魚でも、獲れた時期、場所、時間、さらにはその大きさや部位によって当然味は違ってきますし、たとえすべての条件が全く同じであったとしても、その味は微妙に違います。自分の舌の記憶を頼りに、その魚が一体どれくらいおいしいものなのか、ということを「比較」によって導き出していくボク。「どうだ!これでもか!」といわんばかりに、1貫1貫に全力を込めてぶつけてくるご主人。すしに関しては互いにいつでも真剣なのです。
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ハモとシバエビのすり身が入った「玉子」。にぎりの場合は鞍掛けににぎります。 |
ボクは思ったことははっきりと言いますし、ご主人も詳しい話をいろいろと教えてくれます。日々、すし談議(味についての話)で持ちきりですね。
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長崎県産の「クエのヅケ」。ネットリと凝縮したおいしさです。 |
長いこと食べ続けていると、時たまおいしさの限界を遥かに超えた非現実的な味に遭遇することもあります。こんな時は言葉すらいらない。食べた瞬間に、ご主人とボクの目がピタリと合うんですね。それだけでいいたいことすべてが分かり得てしまうんです。
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マグロの赤身をたっぷりと盛りつけた「マグロ丼」。 |
ご主人は「作り手」、ボクは「食べ手」。その立場は全く違いますが、共通していえるのは「誰にも負けない」という強い思い。「作り手としては誰にも負けない」。「食べ手としては誰にも負けない」。その思い同士が激しくぶつかり合うからこそ、より素晴らしい感動が得られるのだろうと思います。この関係が一生続くことを願いたいです。
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■入船
所在地:東京都世田谷区奥沢3-31-7
TEL:03-3720-1212
営業時間:11:00~22:00
定休日:無休
東急目黒線奥沢駅より徒歩1分。
地図:
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