この日航株の値動きを見ていて、いろんな不思議を感じた人もいたのではないかと思います。
日航の経営状態と政府の対応
半官半民で設立された日本航空は、日本の高度成長に乗り世界一の航空会社としてその名を馳せた時代がありました。しかし1980年代からは下降する一方で、最後は金融危機の影響が致命傷になりました。日本航空の経営危機が急速に表面化したのは、2009年の秋でした。2008年3月期に900億円あった営業利益は、2009年3月期には500億円の赤字に転落し、2010年3月期には2,000億円に赤字がふくらむ見通しとなりました。
政権交代直後の民主党は「JAL再生タスクフォース」なる専門家チームで、任意の再生を目指しましたが、大した成果もないままに解散。結局は、政府の管理のもとで「企業再生支援機構」を活用した法的整理、公的支援という枠組みで日航の経営問題にケリをつけることとなりました。
銀行は3,500億円の借金を棒引きにせざるえなくなり、社債投資家は7,000億円の投資の元本を失います。株式は100%減資のうえで上場廃止となる予定ですから、38万人の株主全体の損失は5,000億円を下らない模様です。
JAL株価の動向
その昔、日航の株といえばだれもが欲しがった優良銘柄でした。「オレはJALの株主なんだ!」とは出張族の中で、相当の威厳を持った声でした。日本を代表するナショナルフラッグだった時代もありました。
最近では株価300円台の安定した時期がありましたが、経営不安が表面化した2008年から徐々に株価を下げ、2009年の年初は215円、公的資金を要請した2009年9月24日には144円、私的整理手続きを申請した直後の2009年11月18日に100円割れ、2009年末には60円まで急落していました。
そして、更正法の申請が固まった2010年1月12日には37円を記録するも殺到する売りをさばけず、発行済み株式数の4分の1に当たる7億株超の売り注文が残りました。そして、翌13日2日連続のストップ安でついに7円まで暴落したのです。
破たん懸念でも売らない人の言い分
それにしても不思議です。日航の経営は1985年の墜落事故以来、ずうっと悪評高きものでした。ましてや、「再生」なる言葉が使われるに及んだこの1年間も、なお株式を保有し続けた人たちの動機は何だったのでしょう?
・かつてのブランド信仰から来る復活を期する思い入れ
・株主優待券というインセンテイブ
・政府が見捨てるはずがないという甘え
・損失が実現することを避けたいという現実逃避
これらの心理は、投資においてはどれもおちいりがちな非合理な感情から来ています。そして、株主が失った金銭的損失は、日航株への愛着から得られていた精神的満足感とは比ぶべきもありません。
本当に人間の心は不可解です。
上場廃止でも買う人の魂胆
もっと不思議なのは、それでも日航株を買う人がいることです。
7円という値段がつくということは7円で買った人がいるということの証明です。他人が絶望して投げ捨てた日航株を拾い集めている人にはどんなもくろみがあるのでしょうか?
・100%減資は完全なる決定事項ではないというわずかな不確実性に賭ける
企業の再生には数年かかりますから、日航の解散価値が確定するのも数年後です。紙くず同然ですが、そう決まったわけでもありません。
・再生処理が完了するまでに、良いサプライズが起こるかもしれない
不動産バブル崩壊のときのようにハゲタカファンドが飛来して良い条件でしかばねを買っていく可能性もゼロではありません。
・実際に上場廃止されるまでの間にも動く株価で投機を楽しめる
7円で買った人が8円で売れば14%のもうけです。値動きが激しくなれば利ざやも稼ぎやすいというのもひとつの道理ではあります。北海道拓殖銀行も破たんから上場廃止まで一年近くの時間がかかっています。
・株主優待券の価値だけの着目する人
有効期限内の株主優待券を保護したいと支援機構は表明しています。株主優待券を金券ショップで処分することもまだ可能です。
まあ、いずれにしても、普通の人には避けたい投機的な取引といえるでしょう。ここから先は、縁のない世界の話として、近寄らないことが一番です。
皆さんは、穏やかで合理的な投資家でいてください。
(ちなみに、日航株の上場廃止は2010年2月20日、株主優待券の有効期限は2010年5月末日と決定しました。2010年1月20日に追記)