緑のアプローチを抜けると……。
騒がしい「オペラ通り」から横丁を入ると、「山楽旅館」の静かな佇まいが出迎えてくれる。 |
緑が鬱蒼と茂るアプローチを抜けると玄関。
「いらっしゃいませ」
と店主が座敷へと案内してくれる。数人で訪れて一番乗りならば、庭が望める特等席に通されるだろう。
「特製親子丼ください」
ビルが林立する都会の喧騒に、こんなにくつろげる空間があったなんて……。
大手資本がお金をかけて作った作為的な空間はどこにでもあるけど、「山楽旅館」のこの佇まいは地に足の着いた正真正銘の静けさ。特別豪華な設えがあるわけじゃない質実質素にして平穏な気配に心和むのだ。お茶をすすりながら暫し待てば、庭先にノラ猫が姿を現し、寝そべって日向ぼっこをする景色。
「お待ちどお様、特製親子丼です」
「山楽旅館」名物の「特製親子丼」の登場だ。鶏もも肉はフワっとした玉子で綴じられ、その中央には半熟玉子がもう一個。一口頬張ると、程よく柔らかな舌触り、嫌味な甘さが一切ない丼ツユの潔い味わい。さらに半熟玉子の黄身を崩して再びいただくと、上等な玉子かけご飯をホウフツとさせる心地よさ。この上なく美味である。合間に自家製のぬか漬けに煮物、みそ汁、うーん、実に旨い。
ここはれっきとした旅館なのだが、