東京カフェを旅する
2010年7月17日発売。全国の書店やAmazonでおもとめください。
【タイトル】 『東京カフェを旅する
 ~街と時間をめぐる57の散歩

【文と写真】 川口葉子
【出版社】 平凡社
【定価】 1500円+税

【カフェオーナーのエッセイを収録】
カフェ・アプレミディ 橋本徹さん/TOKYO FAMILY RESTAURANT 三浦武明さん/dish 益田尚吾さん/カフエマメヒコ 井川啓央さん/moi 岩間洋介さん/tocoro cafe 上村雅一さん

1960年代から2010年までの東京カフェ年表をつくりました。原宿セントラルアパートに出入りするクリエーターたちが集った「喫茶レオン」をご存じでしょうか。

東京カフェはどのように始まったか?

いま、東京には数多くの魅力的なカフェが存在し、街の日常を豊かに支えています。しかしどんなカフェも、手品のコインのように空中からいきなり現れるわけではありません。現在のカフェは、先駆者たちの数えきれない試行錯誤と栄枯盛衰の上に成立しているもの。

今週オープンしたばかりの最新スタイルのカフェも、先人たちが土壌を耕して整えてくれたからこそ、新しい種を育てることができたのではないでしょうか。
「今までにないカフェをつくりたい」という計画は、「今までのカフェ」が存在したからこそ生まれたはずです。

たとえば2000年の夏の、あの熱気。「東京カフェ元年」であるその時期にカフェに居合わせた人々なら、きっと感じていたはずの独特の空気。いま目の前でなにか大きなうねりが生まれている……その現場に立ち会い、目撃しているという実感。

そのときカフェの魅力を知った人々が、やがて自分のカフェを開いて、それぞれの個性を打ち出しながら第二世代の潮流を作りあげていきました。

「すべての探究者は起源を問う」。
そんな言葉を読んだ記憶があります。私も「人々がコーヒーを飲む空間」を長年愛してきた者の一人として、東京カフェのルーツを問い、自分が目撃した「はじまりの風景」を記録し、同時に、2010年のカフェの魅力を探りたいと思ったのです。

バワリーキッチン
2010年の東京カフェに到る流れを語るには、まずこの一軒から始めたいと思いました。2000年、東京のカフェ熱を全国に知らしめたバワリーキッチン。

1996~東京カフェ黎明期

『じつはあのとき、ひとつの時代がひそやかに始まって
いたのだ--後年になって振りかえって初めて、そうとわかる。

【東京カフェ】の萌芽が見られるのは90年代後半。
従来のカフェとはあきらかに異なる個性的なスタイルをもって登場した
少数のカフェが、意図せずに東京カフェの基本形を生みだし、
数年後に爆発的なブームをもたらすことになる。

ヨーロッパの都市文化への憧れを表現してきた
それまでのカフェに対して、新世代の東京カフェは、
世界中から雑多なカルチャーが流入する東京らしさ、
さらに言えば自分らしさを軸にするようになった。  

新しい「東京の食堂」をめざした「バワリーキッチン」は
最初から完成度の高い世界をつくりあげて、ダイナーカフェ流行の
立役者となった。

オーナーの山本宇一さんは
時代の空気、街の空気を表現する場所としてのカフェに
非常に意識的であるように思える。』 (第1章より)

山本宇一さん
山本宇一さんにお話をうかがいました。「どんな音楽を聴いてる?」という質問と同じように、「どんなカフェに行ってる?」は結局、その人のライフスタイルを浮き彫りにするものだと山本さん。

『その対極にあるのが、飲食業を経験したことのない桑のりこさんが
中心となって開いた原宿の「ルーム・ルーム」。
取り壊される予定のアパートのニ階を借りて
期間限定でスタートしたお店は、自分たちの手でできることを
試しながら、パーソナルに語りかけてくるような
【部屋カフェ】スタイルのルーツを生みだしていく。』 (第1章より)

Nid CAFE
ルーム・ルームの子孫とも言うべきNid Cafeが、オープンして最初の3ヶ月間はハワイアン音楽と中国茶と苔玉のあるカフェだったことを覚えていますか。

2010年、静かにじっくりと味わいたいカフェの数々

この本ではまた、東京カフェの現在形を教えてくれる57軒の魅力的なお店をご紹介しています。
これまでずっとさまざまな取材依頼を丁寧に断っていらした、たった4席しかない素晴らしいデミタス珈琲専門店をご紹介させていただけることは大きな喜びです。

このストイックな珈琲店がめざしているのは、“誰にでも飲みやすく、親しみやすい珈琲”ではなく、本気で珈琲を深く味わいたいと思っている人々にこたえられる強度を持った珈琲です。
たかが一杯の珈琲に、形骸化した表現ではなく本当に「命を賭けて」しまう、珈琲屋という生きかたを選ぶ勇気。のりこえてきた試練。

その珈琲店には、私が原稿に書きかけて結局はやめた、波瀾万丈で感動的なリアル・ストーリーがぎっしりと詰まっています。
読者が性急に知ろうとするのも、私が性急に伝えようとするのも、きっと無理なのです。それがどんな物語なのかは、お店を訪れる人自身が時間をかけて、ひとつひとつゆっくりと触れていけばいいのだろうと思います。そのつど驚きと、こみあげる熱いものに心を揺さぶられるでしょう。

珈琲は、それを大切に愛して静かに耳を傾けようとする人には、回数を重ねていくにつれて低い声で語りかけてくれるようになるし、べつになんだってかまわないと雑に飲んでしまう人には、決して秘密を明かさないもの。珈琲店も同じなのかもしれません。

『東京カフェを旅する~街と時間をめぐる57の散歩』(平凡社)、書店で見かけたらぜひお手にとってくださいますよう。いずれ劣らぬ6軒の素敵なカフェのオーナーに書いていただいたエッセイも、それぞれのお店の表情と歩みをいきいきと伝えてくれます。