壁の色彩の濃淡がこの風情ある空間の陰影を深めて、別世界をつくりだしています。 |
特製ブックカバーのある、読書の楽園
今回の記事では拙著『京都カフェ散歩』の中から、読書好きにとってはこの上ない楽園「月と六ペンス」をご紹介しましょう。こういうカフェを作るオーナーには、ひそかに親近感をおぼえてしまいます。京都の有名人気店のひとつ「Cafe Bibliotic HELLO!」の近くにありますので、二条通のお散歩ついでにぜひお立ち寄りください。そうそう、月と六ペンスを訪れたら、忘れてはならないのがオリジナルの文庫本ブックカバーをいただくこと。オーナーがデザインなさったもので、クラシックで美しテイスト。3種類ほどあります(写真下)。『京都カフェ散歩』を旅のおともに連れていってくださった方は、ここで新しいブックカバーに着せ替えると、良い旅の記憶になりそうですね。
クラシックな街灯をモティーフにしたブックカバー。そばに、この街灯のかたちを刺繍した小さな額も飾られていました。お店のファンが贈ってくれたのだそう。 |
ひとりで本を読みに訪れる人のために
モームの小説と同じ店名に惹かれて、古ぼけたビルの一室にあるカフェを探しあてた。店内はあきらかに、ひとりで訪れることを前提に設計されていた。すべての椅子がカウンターに沿って窓や壁のほうを向くスタイルは、まさに読書の楽園。深みのある壁の色調や木の質感が、心を沈静させてくれる。壁のぐるりに、オーナーの柴垣希好さんが特注した木製の書棚がある。私はひとつひとつの背表紙をたどっていった。保坂和志の『猫に時間の流れる』に、堀江敏幸の『雪沼とその周辺』、稲垣足穂、吉田篤弘、佐野洋子……この本棚には見おぼえがあるような。そう、まるでうちの本棚!
等間隔に並ぶ黒いランプシェードが生みだす、静かなリズム。 |
柴垣さんの人生を変えた一冊は、沢木耕太郎の『深夜特急』だった。旅はもとから好きだったのだが、この読書体験のおかげでますます「ひとりで知らない土地に行って不安になるのが好き」になったという。
▼バゲットサンドの移動販売からスタートして…