ドリッパーをゆっくり回してコーヒーを充分に蒸らす、独特のドリップ方法。不器用な人には真似できそうもありません。 |
京都・西陣の絹のコーヒーフィルター
「エスプレッソマシンでうすいコーヒーを抽出しちゃうような店を見かけるけれど、僕はもう道義的、倫理的に許せない(笑)」私も全く同感です! この日、アトリエのテーブルに用意されたコーノ式の円錐形ドリッパーには、絹のフィルターがセットされていました。南清貴さんが2年間使い続けているというそのフィルターは、京都・西陣で14代続く織元「織道楽 塩野屋」さんが作ったもの。
資源の無駄にならないし、ネルよりも手入れが楽だから、と南さん。絹は使いこまれて見事なコーヒー色に染まっていました。
サーバーをていねいに温め、ミルで豆を挽いたら、キヨズ流の蒸らしワザが登場! コーヒー粉に滴下したお湯がまんべんなく行きわたるように、ドリッパーを何度か注意深く回転させます。
これにはちょっと驚きましたが、要はおいしい一杯が抽出できればいいのですから、なにもコーノ式のコーヒー講座が教えてくれる基本に、がちがちに縛られる必要はないわけですね。
そうして淹れられた一杯は、舌の上で旨みがたっぷりとふくらむおいしさ。
「コーヒーにはドライフルーツやナッツがよく合う」と、オーガニックの干し葡萄とマカデミアナッツが添えられました。
「本当においしいコーヒーは、砂糖やミルクを必要としないはず。時としてミルクを加えたい気分になることがあったら、どうぞ本物のミルクを使ってください。お店でよく出てくる小さなプラスティック容器入りのクリームは、植物性油脂に乳化剤、つまり界面活性剤を混ぜて合成したものだから気をつけて」
理想のコーヒー=自分に近いコーヒー
南清貴さんのコーヒーの記憶は、父親の記憶に重なります。幼い頃から、父親が家庭でパーコレーターやサイフォンを使って淹れてくれるコーヒーの味に親しんでいたのだそう。父に案内された日本橋の喫茶店「ウィンザー」のサイフォンコーヒーの記憶も鮮明。
そんな南さんに理想とするコーヒーの味を訊ねると、思いがけない答えが返ってきました。
「自分に近いコーヒーがいいね。口にふくんだときにショックや違和感がなく、すぐに溶けてすっと体内に入っていく感じ。食べものや飲みものが自分とかけ離れていると、取りこむのが大変だから」
口に入れるものとからだの関係に意識的な南さんならではの、非常に興味深い言葉でした。