お客さまに自作の絵本を贈られて
コーヒー1杯、650円。ものごとのクオリティや意義に目を向けず、値段だけではかろうとする「1円でも安いほうが良い」という価値観に立つなら、クルミドコーヒーはぴんとこないお店でしょう。
けれども、1杯のささやかなコーヒーの味わいに目をとめ、それを成り立たせているものを注意深く眺めてみれば、クルミドコーヒーの空気の中に漂う“本当に良いものを育てよう”というスピリットの輝きに気がつくに違いありません。
もしかしたら、その輝きに気づいた人々は少なくないのではないでしょうか。なぜなら、私にむかって常連のお客さまが「僕は駅前のファーストフード店で390円のモーニングセットを食べるより、ここで1杯のコーヒーを飲みたいんですよ」と言葉をかけてきましたし、お店にはお客さまから贈られたという手描きの絵本があったのです。
30代のソプラノ歌手だというその女性のお客さまは、2度目に来店したときに、『リスさんのどんぐりカフェ』という素敵な物語を描いてプレゼントしてくれたのだそう。ページをめくると、クルミドコーヒーのスピリットが確実にその人に伝わっていることがわかるのです。
「開店の日に、50年間続くお店をつくって次の世代に引き継ごうとスタッフたちに約束しました。50年の時間にも耐えられる本物を念頭においてやっていけば、たぶん大きな間違いはしないだろうと思っています」と影山さん。
現代のビジネスは短期間に利益を伸ばすことに集中しがちだけれど、短期的利益よりもクオリティを大切にするという優先順位を間違えずに続けていきたいと。
50年前、この界隈には森があり、影山さんはどんぐり拾いをした記憶があるといいます。新しい街に植えられた一本の樹、クルミドコーヒー。これから日照に恵まれる年が訪れ、天候不順の年が訪れ…、その繰り返しのなかで緑豊かな大樹に育っていくことを、ファンの一人として願ってやみません。
(左)オーナーの影山さん
(右)七角形のコインはマージュ西国分寺の地域通貨。