みごとな無垢の大テーブルが置かれた地下1階席
西国分寺駅前、かつて小さかった大人たちのために
世の中には語るのが難しいカフェというものが存在します。たとえば、クルミドコーヒー。この完成度の高い、素晴らしいカフェをご紹介するにあたり、皆さまにお伝えしたいことがたくさんありすぎて、どこから書きはじめようかとためらってしまうのです。
駅前から徒歩1分とはいえ、あまり人通りの多くない住宅街の立地で、このように細部にいたるまでじっくりと考え抜いて良いものを揃え、そのために決してお安い値段ではないカフェを開くのは勇気あるチャレンジだったはず。
オーナーの影山知明さんは「簡単に手に入るものは、簡単に失われてしまう。だから時間はかかっても、大切なことに手間を惜しみたくないのです」と、一人ひとりのお客さまが気持のいい時間を過ごせるよう、1杯のコーヒーとそれを囲む空間のすべてに高いクオリティを実現させました。
透明感のある水出しコーヒーは、樹液のメタファー
クルミドコーヒーは6階建ての集合住宅「マージュ西国分寺」の地下1階から1階、2階、中2階を用いた4フロア構成のカフェ。隣にはSOHO用のシェアードオフィスなどが並びます。
地階フロアの壁ぎわには美しい姿のコーヒー抽出器具が勢揃いしています。カフェで提供されるコーヒーはすべて水出し。8時間もの時間をかけて、ガラスのフラスコの底に1滴ずつしたたり落ちていく水出しコーヒーは、雑味のない透明な味わい。
水出しというスタイルは樹液のメタファーでもあります。クルミドコーヒーの空間を「森の中に建つぐりとぐらの家」に見立て、森の地面の下に樹々の生命力に溢れた樹液がしたたり落ちることをイメージ。それがまさに地下1階で抽出される水出しコーヒーなのです。
1杯のコーヒーが内包する世界観の豊かさ、美しさに私はすっかり魅了されてしまったのですが、これはまだクルミドコーヒーの大きな世界のひとかけらにすぎません。次のページでは、2階フロアでいただいたクルミをご紹介します。