自分たちで塗り替えたばかりという美しいオリーブグリーンの壁が印象的な店内。フランスのアパルトマンの部屋をイメージしたという空間には、国籍不明の中古家具と、塩野目さんがフランスの旅で買いもとめた雑貨が居心地よく並んでいます。
見えないものをつくる意識が、カフェをつくる
塩野目さんはレストランの厨房から、自分がお客として愛用していたカフェの厨房へと働く場所をシフトしたとき、カフェの自由度の高さと、ニュアンスに富んだ空気感を醸成する努力に驚いたといいます。 「カフェでは料理とドリンクがおいしいだけでは通用せず、空間全体で総合的な魅力をつくりあげていることを実感して驚いたんです。たとえばBGMひとつとっても、スタッフは音楽にも音量にも細かく気を配っている。見えないものをつくりあげる意識の高さに刺激を受けました」 |
カフェでは一人でふらりと訪れてエスプレッソ1杯とスイーツだけ楽しんでもいいし、数人で訪れてワインと料理を囲んでもいい。フランスのカフェなら煙草を吸うために訪れる人もいる――その「どう過ごすのも自由なのだという意識を、お店の人もお客さまもしっかり持っている」ことがカフェ魅力なのだという塩野目さんの言葉に、深い共感をおぼえました。
decaの大きな窓から見える空の色のこと、大通りをゆきかう車のフロントガラスが太陽を反射して、昼間のカフェの天井に光の模様を描くということ、夜は赤いテールランプと黄色のヘッドランプの流れが美しいということ、窓下を走り去る長距離バスを見ると旅に出かけたくなること……
オーナーにそんな話を聞いていると、あらためて、この人は自分自身でカフェの喜びを体感してきたのだということが伝わってきました。そんなふうに窓からの街の風景と自分の心の風景を眺めて過ごすことこそ、カフェ時間の大きな幸福のひとつなのですから。