“日々の器は、還りたい場所。”
昨年11月、馬喰町ARt+EATを舞台におこなわれた「ごはんのうつわ展2008」には、飾らない美しさのうつわを愛する多数の人々が足を運びました。
出展作家は松山の石田誠さん、奈良の尾形アツシさん、高知の小野哲平さん、常滑の小山乃文彦さん、神奈川の田谷直子さん、茨城の深田容子さん、静岡の村木雄児さん、京都の村田森さん、奈良の吉岡萬理さん。
作家たちの手が土から生み出した素朴なめし碗の数々は、心のすぐそばに感じられる表情と体温を湛えており、日々の食卓で使っていくうちに、声をかけたら黙ったままうなずくような生きものに育つのではないかと思われました。
この充実した展覧会を企画したのは、鎌倉で「うつわ祥見」を主宰する祥見知生さん。 表紙に小山乃文彦さんの粉引き皿を配した祥見さんのすばらしい著書『日々の器』(河出書房新社)では、前見返しにこんな文章が置かれていました。 土から生まれた器には、土から離れ、 ずいぶん遠くまで来てしまったわたしたちの、 還りたい場所が宿っているのかもしれない。 |
人もうつわも、いつか土に還っていく
会期中には「のらぼうごはんの会 東京で土を想う」と題した一晩だけの集いがおこなわれ、ふだんは快い静けさに満ちた馬喰町ART+EATが、このときばかりは50名の予約客でぎっしり満席に。
キッチンには東京で採れた野菜にこだわる西荻窪・のらぼう店主、明峯牧夫さんが立ち、当日、ぎりぎりの時間まで農家をみずから回って収穫してきた色とりどりの野菜を用いて、一品料理に仕立てました。
「心のどこかに“土の風景”を持っていることの大切さについて、祥見さんとよく話しています。人もうつわも、いつかは土に還っていくのですから」
と明峯さん。それはふだん意識から遠ざけている事実をあらためて気づかせてくれる、目の覚めるようなひとことでした。次のページで、この日の模様をお伝えしますね。