見せていただいた写真には、なにげない窓辺が写っていました。洋雑誌の見開きページ。どこの国ともしれない室内の、みずみずしい緑に囲まれた窓辺に小さな丸椅子がひとつ。それだけです。
「この窓のまわりはどんなふうになっているんだろう、と想像していったのです」
と畑さん。私はカフェの奥に立ち、写真と、目の前にある窓辺を見比べてみました。狭い路地を挟んだ向かい側の家に咲く木蓮の花が、恰好の借景になっています。
風景の断片からインスピレーションを得て、空間全体を構築していくセンス。それは畑さんに与えられた神さまのギフトなのかもしれません。
「この店、なんかいいですね、と言ってくださるお客さまが一番嬉しいですね」
と畑さんは言います。
お店の魅力を幾つかの要素に分解して、椅子のデザインがいい、座り心地がいい、トイレがいい、メニューの○○がいい……と明確にしたがる向きもあるけれど、畑さんにとっては「なんか、いい」というのが最高の言葉なのだそうです。
それは、なんとも心惹かれるたたずまいの人に出会ったとき、その魅力を明確に言葉にすることができなくて、「なんか、いい」としか表現できないのと似ているようにも思えます。