北欧と日本に共通する心
もうひとつは、高崎哲学堂が世界的な建築家、アントニン・レーモンドの麻布の自邸を模して1950年代に建てられていること。フランク・ロイド・ライトのもとで学んだレーモンドは、帝国ホテル建設の際にライトの助手として来日。レーモンドが麻布に建設した自邸(現存せず)は日本のモダニズム建築の代表的作品とされていますから、“ミッドセンチュリーモダンつながり”でウェグナーの椅子が違和感なくおさまるのでしょう。ちなみに高崎哲学堂は井上房一郎の旧邸。井上房一郎はアントニン・レーモンドと親交があり、またブルーノ・タウトを高崎に招聘した人物としても知られています。
そして3番目のヒントは、この「ウェグナーに座ろう」の発案者である高崎デザイナーズアクト代表・山口克弘さんが香り高いコーヒーを飲みながら教えてくれました。
「コペンハーゲンに行き、ウェグナーの椅子作りをしている工房を訪ねましたが、職人さんたちの手に日本製のノミがあったんです。日本の工具のほうが使いやすいんだそうです。北欧の人々と日本の人々は、木に対する接し方や、木の扱い方が似ているのかもしれませんね」
すべてのはじまりは、小さなカフェ
山口克弘さんに今回のイベントを始めたきっかけをうかがってみました。「かたちのないものをデザインしてみたい、というのが僕の挑戦。このイベントはそんな挑戦のひとつであると同時に、高崎の町をもっと楽しもうよという気持ちの人々が手弁当で集まった、“大人の部活動”でもあります」と山口さん。
そのイベントが決して自己満足的な閉じた楽しみではなく、関係各方面の信頼と協力を得て、日本各地から人々が訪れる魅力的なものとなったのは、参加している方々の意識の高さと、日頃お仕事で発揮されている実力によるものなのでしょう。
高崎デザイナーズアクトのメンバーを結びつける役割を果たしたのが、中林さんがかつて高崎で開いていた小さなカフェでした。
次のページで、“コーヒーの神さま”に背中を押してもらったという中林さんのお話をご紹介します。
謙虚で優しいお人柄の中林さんですが、コーヒーやカフェにまつわる小さな物語を愛する人なら胸が熱くなってしまうにちがいない、 すばらしい言葉を聞かせてくれました。