ノルウエイ製の薪ストーブが語る
たとえば、冬の森彦をあたためるのはどっしりした薪ストーブ(写真上右)です。1階の窓辺に置かれたノルウェイ製のヨツール118。寒い日には軒下に積んである薪がくべられ、訪れる人々を力強い熱で包んでくれるそう。「これは父が持っていたストーブです。うまく燃やすコツを会得するには6年かかりました(笑)」
ストーブに刻印されているのは古いノルウェー語の詩。
一日が終わり、夜遅く、種火に灰をかぶせる。
神よ、私の火が決して消えることのないように。
古い道具たちを眺めていると、無骨さと可憐さが同居する体の中に、それぞれが一家言を持っていて、尋ねればものを言いそうに見えてきます。長い歳月のあいだにそばで語られた人間の言葉の数々をも、道具たちはしっかりと記憶の中にしまいこんでいます。深夜の森彦の誰もいない店内には、道具たちがひそかに吐き出す物語が煙のように漂っているかもしれません。神よ、私の火が決して消えることのないように。
譜面台に雑誌をのせた足踏みオルガン。大きな旅行鞄。足踏みミシンの台を2つ並べた上に、バリ島で床板として使われていたという厚い木板を渡したテーブルは、表面がおそろしくでこぼこしているため、スタッフがコーヒーカップを置くときにコツが必要だといいます。
女学校で使われていたらしい小さな木のスツールの座面には、なぜか弧を描く穴が開けられていました。この穴は何でしょうか、と市川さんに尋ねると、おそらくスタッキングする時に手を入れられるようにしたのでしょう、とのこと。ためしに穴に手をさしこんでみると、ゆるやかな弧にぴたりと手がおさまりました。
「お店で使っている和食器もそうですが、古い道具というのは、探して見つけられるものではないんですよね。偶然に目がとまったときにぴんときたら手に入れておかないと、次に行ったときにはもうなくなっているのです。この家もそうでした」