シャンパンサーベルでカチン!と吹き飛ぶコルク

まずは写真をご覧頂きたい。さまざまな式典でよく「シャンパンサーベル」として披露される、シャンパーニュの特別な抜栓方法がこのサブラージュ(sabrage)。コルクごと瓶口を折り飛ばすのに使用するサーベルのことを、フランス語で「サーブル(sabre)」ということにちなむ。慣れない人が真似をすると非常に危険なのだが、熟練したサブラージュのテクニックは祝祭の場を華やかに盛り上げる。
 
コルクは瓶口ごと折れてガスの圧力でポンと吹き飛び、すぐにシャンパーニュの泡があふれ出る。米金孝雄氏のサブラージュ

このサブラージュを行いつつ、シャンパーニュ振興に務めている有志の集まりがサーブルドール騎士団である。本部はフランスで、日本支部が置かれたのが2003年。現在、国内のサブラー登録数は日本在住の外国人を含めると85名にのぼるという。一般には公開されていない、サーブルドール騎士団の叙任式を見せてもらった。
   

シャンパンサーベルを持つ騎士団の登場

旗手の先導で会場のビストロ『ル・プレヴェール』におごそかに入場した騎士団は、サーブルドール騎士団駐日大使のピエール・ボードリ氏を筆頭に5名。右手で持つサーベルの刃を左手で握っているが、この刃は鋭くないので掌が切れる心配はご無用である。
 
いちばん手前のピエール・ボードリ氏から、吉澤公寿、遠藤誠、ベルナール・アンクティル、吉野忠司の各氏
 
騎士団のコスチューム
騎士団のコスチュームは、帽子・マント・ペンダントを私服の上に着用するもの。1986年に発足した、本家フランスやイギリスなどのコンフレリー・デュ・サーブル・ドール(Confrerie du Sabre d'Or)と同じ様式である。






 
ペンダントには瓶首とコルク
首から下げているペンダントは、金色の枠の中に自分の叙任式で切り落とした瓶首とコルクが収められている。瓶口のガラスは、鋭い切り口が残らないように研磨してある。さて彼ら騎士団は、どのようにサブラージュを行うのか? 叙任式の始めに、まず模範となる実演が披露された。




 

サブラージュのメカニズムと注意すること

このようなフォームでサーベルを進める
サーベルでワインボトルの首をはねる。たいていの人はちから任せにボトルの上部を叩いてしまうが、すると瓶肩の辺りを大きく割ってしまい、ガラスの破片が入ってシャンパーニュは飲めなくなってしまう。それを防ぐために騎士団は、まず瓶首のフォイルを剥がしたボトルを向こう側に傾けて持つ。そして手前のボトルの底辺りから肩に沿ってサーベルをすべらせ、瓶口の下にある突起に軽くぶつけるのだ。


 
最終的なストロークはこんな方向
上手くいけば、カキンという硬質な澄んだ音が鳴り、突起の下部分にヒビが入る。シャンパーニュのボトルは5気圧ほどの内圧に耐えるよう、丈夫に作られているのだがボトルには縦にひと筋の継ぎ目が入っており、ここに衝撃が加わると簡単に瓶口に亀裂が入るのだそうだ。

コルクは亀裂部分から下には少ししか入っていない。すると瓶内のガスがコルクを押し出し、瓶口とともにコルクが飛ぶ。その後にはシャンパーニュが噴き出す。あとはシャンパンを浴びないよう、またシャンパンがありったけ床にあふれないよう、腕を伸ばしたままボトルを立てるのが肝心である。
 
ボードリ氏の見事なサブラージュ。噴き出すシャンパーニュに注意を払う

「必ず手袋を着用すること、コルクが飛ぶ方向に壊れやすいものがないのを確認することも重要です」というワインスクール『アカデミー・デュ・ヴァン』講師も務める遠藤氏は、何度か試みても割れないボトルがあることを示し、「3回のチャレンジでサブラージュが成功しない場合は、複数の亀裂が広がって大きく割れる危険を避けるために別のボトルに取り替えることになっています」と解説した。
 

叙任式ではサブラージュを披露し成功させる

 
アンクティル氏のさり気ないサポート
今回新たにサブラーに叙任されたのは7名。サブラー(sabreur)はサーブルドール騎士団の最初の位階で、ここから功績や年数に応じてオフィシエ、コマンドゥール、シュヴァリエ・ドヌールという順番で位階が上がっていく。




 
見事な腕前で泡のリボンを描く
新たにサブラーとなるメンバーは、会員が見守る中で次々とサブラージュを披露した。洋装が多い会場にあって、着物の着こなしで注目を集めた新サブラーは藤田礼子さんである。豪快なセレモニーだけに、シャンパーニュが手や腕にかかったり床から足元に撥ねないよう注意が必要なのはもちろんだが、見事に成功させた。






 
肩にサーベルを置く刀礼
中世ヨーロッパで騎士が領主に忠誠を誓う儀式「刀礼」に倣い、駐日大使が叙任の言葉を述べながらサブラーの肩にポンと剣を置く儀式が行われる。「サブラージュを通じて騎士団と共にシャンパーニュ愛好家の輪を広げていく」使命のサブラーが誕生する瞬間である。



 
騎士団の証書授与
藤田さんの他にサブラーとなったのは、中川直樹、杉浦裕子、米金孝雄、八反雅代、久米和雄、木内康人の諸氏。サブラーになるにはまず騎士団の会員となり、次に2名のサブラーの推薦を受けてこの叙任式を受けるという段階を経るのである。

 

叙任式後、特別に用意されたブランチが供された

上から時計回り順に『トマトといちごのガスパチョ』、『アンチョビクリーム入りシュー』、『フレッシュフロマージュのミルフィーユ』
午前中から始まった叙任式の後に供されたシャンパーニュは、ブラン・ド・ブラン(白ブドウのシャルドネのみで造られた白)ばかりを14種類。上品さと爽やかさの中に繊細な芳香と力強い酸味があるタイプだ。

祝宴のために特別に用意されたブランチは、少量多品目のムニュ・デギュスタシオン(味見コース)である。自家製のカナッペが出された後に、前菜は晴れた初夏の日に相応しいクリーミーなトマトといちごのガスパチョ、ふわりと海の香りを残すアンチョビクリーム入りシュー、そしてさくさくと口の中で砕けるフレッシュフロマージュのミルフィーユだ。





 
『鯛と小えびのポワレ 赤ワインソース ガランガ風味』
主菜はまず魚料理が、鯛と小えびのポワレと赤ワインソースにガランガの風味付けがされている。ガランガはショウガの近縁植物で、カレー粉の原料になるなど東南アジアで多用される。こうしたエキゾチックな香り付けで食べるしっとりした魚介類はエスニックな感覚でもあるが、赤ワインソースでしっかりフランス料理に仕上がっている。



 
『乳飲み豚の煮込み スペシャリテ・デュ・プレヴェール』
肉料理はこのビストロのスペシャリテ(看板料理)となった、乳飲み豚の煮込みである。ねっとりとゼラチン質で包み込まれた豚のさまざまな部位の旨味が、八角やシナモンの香りと溶け合っている。これもまた中国や東南アジアの風味を感じさせる。この料理と共にシャンパーニュを飲めば、爽やかな酸味と泡が口中を洗い流してくれる。


 
『クープ・ドゥ・ショコラ、グリオットのジュレ、ペティアンのサバイヨン』、『パセリのアイスクリーム』、『スパイシーマカロン』
デザートはフルート型のグラスに、何やら黒ビールのようなものが注がれている。よく見るとそれはチョコレートムースにグリオット(野生のサクランボ)のジュレを乗せて、一番上に卵黄を泡立てて作るサバイヨンがトッピングされたものである。フワフワと軽く、一気に食べてしまう。

グラスの足元に添えられたのは、パセリを入れたアイスクリーム、そしてコリアンダーとラス・エル・ハヌート(北アフリカや中東で使われる調合スパイスの一種)を効かせたマカロン。主菜に使われたアジアのスパイスに対して、デザートでは中東で多用するパセリやコリアンダーなどの香りがちりばめられている。

叙任式の会場となったビストロ『ル・プレヴェール』の料理を監修するのは、パリ本店のシェフで来日中のフィリップ・ドゥラクルセル氏。「スパイスの魔術師」と呼ばれ、ビストロでのガストロノミーを意味する「ビストロノミー」をリードするというだけあって、自由闊達な香辛料の使い方である。
 
フィリップ・ドゥラクルセル氏(左)と談笑するベルナール・アンクティル氏

デザートが供される頃、ホッとした表情のドゥラクルセル氏と語らっていたのは、叙任式でサブラージュのサポートを務めたベルナール・アンクティル氏。フランス料理店『プティ・ブドン』のシェフである。裏方の活躍あっての、華やかな叙任式そして祝宴だった。

さて、あなたもサブラージュに挑戦してみたいと思うなら、熟練した指導者について安全に練習するべきである。この記事を読んでサブラージュを試みて、損害を被ったといっても筆者は責任を持てないから。
 

関連サイト

 ■ サーブルドール騎士団   
   フランス本部そして英国 日本など各国に大使を置く団体


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