発想は一瞬のひらめきではなく、考え抜いた先の答え。
すずりのお皿と、それに合わせた黒いカトラリーが斬新な印象を与える「ハンガリー産フォアグラのテリーヌ 干し柿とハイビスカス」。 |
でも、そんな進化の中にも、堀さんらしいなというテイストは、しっかり健在。それは、濃厚なものはとことん濃厚に愉しませるところ。それが、今回のコースで、最初に感じたのが、前菜の「ハンガリー産フォアグラのテリーヌ 干し柿とハイビスカス」。
すずりのお皿に合わせた、同色のカトラリー。 |
干し柿をのせたハイビスカスゼリーは、センスを感じる発想だなと思ったのですが、堀シェフいわく、「僕の場合は、発想はセンスではなく、苦しんで出した答え。一瞬のひらめきと言うより、考えに考え抜いた先でやっと形になったもの。なので、この小さなアレンジで、視覚的にワクワクしてもらえたら嬉しい」。
頭の半割りから脳みそを吸うヤマウズラのジビエ。
レモンでもオレンジでもなく、金柑を添えるところにセンスを感じる「スコットランド産ヨーロッパヤマウズラのロティ サルミソース」。 |
濃厚と言えば、メインの「スコットランド産ヨーロッパヤマウズラのロティ サルミソース」も、そのひとつ。心臓、肺、砂肝などを使ったソースの色を見ただけで、その濃さが想像できると思いますが、それはそのまま寸分違わぬ味で、舌の上を攻め始めます。
お皿のかたわらに置かれた茶色い物体は、なんとヤマウズラの頭の半割り。ちゅーっと脳みそを吸うと、一気に広がるジビエの香り。大好きな人にはこの獣臭さがきっとたまらないのだと思いますが、私は申し訳ないのですが、少々苦手。
なので、すぐさま、金柑の輪切りで口直しをしたのですが、でも、考えてみれば、このような部位を口にする機会はなかなかないので、角度を変えれば、これも良い体験。中には、好奇心旺盛な人なのでしょう、この頭ごと、バリバリ食べる人もいるのだそう。でも、特にくちばしは、喉を傷つけそうな固さなので、トライする場合は注意が必要。
と書くと、ちょっとスリリングなひと皿ですが、実は同時にちょっぴりグロテスクでもありました。それは、ソースからにょきっと宙にのびた、何かをつかみそうな足先。想像にお任せしたいと思い、写真ではカットしましたが、パリで6年も修行を積んだ堀シェフのこと。本場の見せ方を熟知した仕上がりなのだと思います。
濃厚とさっぱりの起伏に富んだコース構成。
コースの始まりにふさわしい軽やかな前菜「蟹とウニのコンビネーション 海苔の淡雪」。 |
でも、こんな濃厚さも、若手シェフならでは。まだまだ血気盛んな味覚が、料理を誘導している感じです。でも、以前と大きく違うのは、起伏がとても感じられること。
以前は、野菜を多く使いながらも、どこか全体的に濃厚な部分を残していたけれど、今は濃厚とさっぱりの切り替えがとても上手い。たとえば、それは、前菜「蟹とウニのコンビネーション 海苔の淡雪」。
これは、黒大根を加えてカリカリした食感を出した蟹とウニの和え物の上に、浜名湖産の青海苔のエスプーマをのせたもの。きれいな緑を出すためにプラスしたのは、カリフラワーのムース。縦割りで色々な味をまとめながらいただく立体感と、気泡のはかなさが、このひと皿の最大の魅力です。
青森産よりドーバー海峡産が美味しい。
青海苔のチュイルといただく「ドーバー海峡の舌平目 ジロール茸のアンクルート 手長エビのソース」。 |
また、「ドーバー海峡の舌平目 ジロール茸のアンクルート 手長エビのソース」も、青海苔が効いているひと皿。パリパリ楽しめるよう、青海苔を大きめのチュイルにして立てかけてあります。
ドーバー海峡産にこだわった理由を聞いてみたところ、青森産と食べ比べたところ、味が濃かったから。これにしっかりと塩をして、蒸してあるので、淡白な魚ながら、味わいは鋭角的。本当はムニエルにしたかったそうですが、次のリードヴォーとだぶるため、ここでは蒸しをセレクト。
リンゴがリードヴォーの味の輪郭を際立たせる。
酸味と塩味がうまくまとまる「リードヴォーと根セロリのクリーム 燻製塩で」。 |
肉のメインは、「リードヴォーと根セロリのクリーム 燻製塩で」。実は私、リードヴォーもあまり得意ではなく、メニューを見た時、正直、ちょっぴりがっかり。でも、今回、心から美味しいと思えたのは何故だろう。
それは、塩使いの上手さはもちろんのこと、思うに、リンゴとの組み合わせ。きっと酸味とシャキシャキ感が、ぼやけがちなリードヴォーの味に、はっきりと輪郭をつけてくれたのでしょう。
ちなみに、亀山さんいわく、リンゴはアダムの喉仏を作ったと言われる果実。その喉仏に形が似ていることから、リードヴォーにたとえられることもあるのだそう。なので、この料理は、それにかけたひと品。ちょっとおもしろい発想ですよね。
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