2008年秋オープンの「レストラン タテル ヨシノ 銀座」。
本物のキジやホロホロ鳥の羽を使ったオブジェが飾られるダイニング。 |
「平坦な道ではなかった」。そんな言葉を聞いても、その重みを吹き飛ばしてしまうくらい、今の活躍が輝かしい吉野建(ヨシノタテル)シェフ。
小田原のレストラン「ステラ・マリス」から、パリ8区へ。そこで開いた同名店で、2006年、ミシュランの一つ星を獲得。現在は、2009年版「ミシュランガイド東京」でも、一つ星を獲得する、「レストラン タテル ヨシノ 芝」「レストラン タテル ヨシノ 汐留」のオーナーシェフでもあります。
そして昨年、2008年秋には、都内3店舗目となる「レストラン タテル ヨシノ 銀座」をオープン。コンセプトは、「ネオ・トラディショナル」。「伝統を大事にしながら否定せず、モダンと融合させながら進化させ、伝統を伝えていく」。
エレガントさと野趣を兼ね備えた、打ち解けやすい空間。
右から時計まわりに。エレベータを降りたエントランス、木の格子を張った窓から見える銀座の夜景、ダイニングの天井から吊るされた三連リングのライト、昼間の個室席。 |
そのシンボルとなっているのが、天井から吊り下げられた壁一面のオブジェ。これは、カイディン・モニク・ル・ウェラー&アドリン・ル・ウェラーの『味覚の彩り』という作品。税関を通すのが一苦労だったという、本物のキジやホロホロ鳥の羽を使い、「自然」を表現しています。
この作品のテーマと、テロワ(大地)を基として進化してきた吉野シェフのお料理が結びつき、生み出されたのが、エレガントさと野趣を兼ね備えた「レストラン タテル ヨシノ 銀座」の空間。
天井が7メートルと高いため、その開放感から、ブライダルや記念日仕様のレストランと思いがちですが、ここが持つ打ち解けやすさは、ランチでもぜひ利用したいもの。
気軽にというほどカジュアルなお値段ではありませんが、ひと皿づつのポーションもしっかりで、満足感もひとしお。ミネラルウォーターも軟水から硬水まで常時10種類も用意され、プチ・バケットなどのパンも、「芝パークホテル」内にある自社ベーカリーで焼き上げられ、一日2回運ばれてくるという力の入れようです。
約35種類の野菜をいただく「季節野菜の庭園風」。
その「レストラン タテル ヨシノ 銀座」の代表的なお料理のひとつが、「季節野菜の庭園風」。これは、35種類ほどの野菜やハーブを、それぞれの火入れに気遣い、ひと盛りにした前菜。「野菜をたくさん食べてもらいたい」という思いが発信源になっていますが、それ以上に基盤となるのが、「季節を楽しんでほしい」という願い。
だからこそ、取り払ったのが、この野菜はこうだから、こう煮なければとか、こう切ったからには、こう焼かなくてはという「こうでなければ」の概念。自由な発想がレシピとも言えるひと皿なのです。
なので、ずっと食べていても、味が濁らない。飽きがくる手を加え過ぎのお料理とは違い、無条件に軽やかです。
いつもなら「コレ、何ですか?」とわからない野菜の名をすぐ尋ねる私も、このひと皿に限っては、わからないまま楽しみたい。それは、子供の頃、近所の野原で遊んでいた時の気分。ひとつひとつの草花の名はわからなくとも、摘み取ってはシューズのひもに編み込んだり、束ねてはスカートのポケットに飾ったり。そんな楽しみにどこか似ている気がします。
【目次】