10年以上通いつめる串喝店をご紹介!
「知仙」外観。以前「本館」があった時は、こちらは「別館」と呼ばれていました。 |
木の引き戸をガラガラッと開けると、聞き覚えのある「いらっしゃい」の声。それを聞くと、「ああ、またここに来た」という感慨深さにとらわれる。
ここは、私が10年以上通っている、串喝店。その名も、六本木「知仙」です。
案内されるのは、店内唯一のカウンター席(全28席)。揚場をU字型に囲む席です。U字型と言うと、向かい側の席の人と顔が合ってしまうイメージがありますが、ここは2台ある煙突状の油のフードが、いい具合につい立てになっている。その上、早い時間だと、隣りと2席くらい開けて案内してくれるので、他のお客さんを意識せず、食べられる感があります。
そんなカウンター席の一角に通され、まずはいつも通りビールで乾杯。すると、やはりいつものように、「おまかせにしますか?」と料理人に聞かれます。
答えは、「はい。おまかせで。でも、間に挟む小鉢料理は、なしにしてもらってもいいですか?」。でも、こう頼むのが、いいのか悪いのか。
と言うのは、ここの「おまかせ」は、数本の串喝の間に、グラスや小鉢に入れた季節料理を挟むのが、基本スタイルだから。なので、その流れに沿って楽しむ方が、次の串喝までの待ち時間も少なく、スムーズ。でも、この料理がある分、当然お腹は膨れ、食べられる串喝の本数は減ってしまいます。
それが串喝好きにはもったいなく、ついつい「串喝のみのおまかせ」をオーダーする日々。そして、その期待に応えてくれるのが、ここで出される季節ドンピシャな逸材たちです。
それは、たとえば、松茸、栗、マコモダケ、丹波の黒豆になる前の枝豆、あわび、めごちなど。それが通年ある、穴子、黒豚、イカ、アスパラなどの間に挟まれ、次々目の前に出てくる。全体で用意されているのは、通常約35種類。それらは、こちらが「ストップ」をかけるまで、ずっと揚げ続けられる。
でも、それを全制覇できる人はあまりいないので、そうなると、ストップ以降に出番を待っていた素材の中に、最も食べたいものが潜んでいたという残念な事態にもなりかねない。
そのため、ある程度、お腹が満たされ、あと数本でストップしようかなという頃合を見計らい、メニューを見せてもらうのが、ここでの賢い食べ方。その中から、まだ食べていない、でも食べておきたい素材をオーダーするもよし、先に出た素材をリピートするもよし。
私からの個人的お奨めは、今の時期なら、栗、マコモダケ。通年のものなら、子持ち昆布、黒豚のフィレなど。中でも、特に梅肉が添えられた子持ち昆布は、わざわざスタートとラストに設定してもらうこともある、大好物のひと品です。
でも、「こんなに長く通っているお気に入りのお店を、なぜ今まで記事にしなかったの?」と聞かれれば、揚げ物は衣がつくと、どれも似たような見た目になり、美味しさが伝わりにくいと思ったから。
こう言うと、「そこを伝えるのがグルメガイドでしょ」と言われそうですが、そこは私の10年分以上の計り知れない満足感が、邪魔をしたとしか言いようがありません。今回だけは、「百聞は一見にしかず」を届けたかった。
客層は、夫婦、友人同士、ファミリーらしき人をはじめ、会社の上司と部下もしくは同僚、また場所柄、業界関係者風の人たちを見かけることもあります。
お値段は、この10年くらいの私の統計で言うと、いつも2名で行き、飲み物を5~6杯頼み、串喝のみのおまかせにして、17,000円~27,000円くらい(2名分の合計)。この開きは、その日の体調でストップするのが早かったり、たまたまその日、高級な食材が多かったりするのが理由と思われます。
通りからは、引き戸の隙間以外、窓もないため、中を伺い見ることはできませんが、ひとたび開ければ、そこは、堅苦しさのない、こだわりと吟味の世界。油の匂いはほとんどしないのに、パチパチとはねる小気味いい音が、秋の旺盛な食欲をかき立てます。
次ページでは、「知仙」店舗情報と、お会計が過去最高だった日の串喝のメニューをご紹介します!