スイカとヨーグルトとセロリのスープの驚きから始まる創作力溢れる懐石料理。
上中央から時計まわりに、もろこし豆腐、スイカとヨーグルトとセロリのスープ、笹寿司、白だつの胡麻びたし、タコのやわらか煮。 |
グラスの底には、香草の苦味を緩和する真っ白な角砂糖。それが溶ける度、甘い泡を誘い出し、次々はじけていきます。いつになく感じるスイートなシュワシュワ感が、いい具合に胃を刺激していきました。
そんな中、最初に運ばれてきたのは「季節の前菜五点盛り」。甘辛さを充分染み込ませた「タコのやわらか煮」、とうもろこしを粒のまま練り込んだ「もろこし豆腐」、さっぱりと水々しい「スイカとヨーグルトとセロリのスープ」、生ハムとミョウガをあしらった「笹寿司」、ずいきを使った「白だつの胡麻びたし」。
ずいきとは里芋の葉柄(ようへい)。白だつとも呼ばれます。2002年に加賀野菜として認定された食材。白ネギに似た味わいとシャキシャキした歯触りが特徴です。そのため、煮てもしっかり感があり、食べ応えがありました。
燻香豊かな生ハムの笹寿司。 |
パリの三つ星レストランでも高い評価を受ける「醸し人九平次」とともにいただく珍しい和の食材。
ダシ冥利に尽きる「鱧の葛たたき 松茸」のお椀は、薄く切ったライムの皮と珍しい小メロンのスライス入り。小メロンとは、よく奈良漬けに利用される野菜のメロン。種があるので真ん中をくり抜いて使います。ずいきもそうですが、珍しい食材は食の楽しみを大きくふくらませ、一緒に訪れた人との会話を弾ませます。アボカドを固くしたような味の小メロン。 |
しかもここには、「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」が限定で用意されています。これは、パリの三つ星レストランでも高い評価を受ける純米大吟醸。八海山のようなキリッと引き締まったスッキリ感がない分、凛としたフルーティーさが魅力的でした。
前菜(冷)、お椀(温)、お造り(冷)ときたら、次は温。交互に出るのが懐石らしい特長のひとつ。煮物は、「南瓜饅頭」でした。
中からごろっとユリネやぎんなんが出てくる南瓜饅頭。 |
博多帯をイメージして作られたグランメニューの野菜のミルフィーユ仕立て。
サラダは、「白菜とサーモンの博多蒸し 葱味噌添え」。博多蒸しとは、ミルフィーユ仕立てのこと。一度締めたら緩まない経糸密度の高い博多帯からつけられた名前です。これは、ディル、白菜、人参、赤パプリカ、黄パプリカ、サーモン、インゲン、白身魚とサーモンのテリーヌ、昆布をぎゅっと重ね合わせ、美しい色合いとハーモニーを楽しむもの。手を加えるのを惜しまない元料亭の心意気にふれるとともに、従来の懐石にはない新しさをも感じました。
野菜の層が美しい博多蒸し。 |
そして主菜は、4つのメニューからの選択。「銀鱈の西京焼き 松茸コロッケ添え」を頼みました。
稲穂で結ばれた朴葉を開けたら、よく発酵した西京味噌のいい香り。大きな朴葉に負けない厚みのある銀鱈に、すだちを絞っていただきます。傍らには、小さな柿? なんと、うずらの卵でした。それに昆布でヘタを作り、柿に見せているのです。うーん、何とも風流です。
懐石は、コースが終わる頃ちょうど満腹を感じるよう計算された料理。
稲穂付の朴葉のまわりは、軽く揚げたライスパフ。 |
最後のお食事は、「鮎の炊き込み御飯」。「麦とろ御飯」もありました。ちなみに、主菜から合わせたのは、ほどよい渋みの赤ワイン、スペインの「Birillo」。お魚は通常、白ワインをセレクトするものですが、味噌漬けの場合、赤もなかなか。普通の味噌より塩分少なめであっさりの西京味噌は、濃厚な赤ワインをもってくることで、バランスの取れた味わいに昇華するようでした。
柿に見せたうずらの卵。ヘタは、昆布。 |
イタリアンなどは一品がドカッとくるので、それぞれのお皿を目にした時の感動はひとしおですが、その分、途中から苦しくなることもしばしば。特にクリームソースを使うお料理の後は、胃がどっかり重く感じることもあります。
そういう意味では、今日は別腹をあてにせず、思う存分デザートを堪能できそうです。
さて、お待ちかねのデザートは、旬の野菜を生かした「ずんだモンブラン」! 青々とした枝豆と栗のシンフォニーを次ページにてたっぷりご紹介します!