心理分析捜査官が示したプロファイリング像と、実際に捕まえてみた容疑者とが驚くほど酷似していたというケースは枚挙に暇がありません。『羊たちの沈黙』など映画やテレビの題材としても皆さんも良くご存知のことと思います。
遺留品でさえこの始末ですから、洞察力の優れた人間と少しでも行動ともにしようものならあなたの全てが見抜かれてしまうかもしれません!
しかも犯人の心理を分析するその材料がゲームのプレイスタイルだとしたら! 現実にはそのようなシチュエーションはまず有り得ませんが、推理小説の世界ではいくつかの名作がすでに発表されています。
始めにご紹介するのはミステリーの女王アガサ・クリスティー。彼女の生み出した名探偵といえばエルキュール・ポワロ。タマゴ頭に口ひげ、灰色の脳細胞を駆使して犯人を追い詰めるベルギー出身の探偵です。
その人気シリーズから『ひらいたトランプ』(早川文庫)この小説にはトランプゲームの王様、コントラクト・ブリッジが登場します。
ポワロは飛び切り奇妙なパーティーの招待を受けます。「生きた犯罪コレクションを見せましょう」招待主のシャイタナ氏は殺人の前歴のある人間たちを集めたというのです。客は総勢8名。2つの部屋に分かれてブリッジを行いますが、なんとその最中にシャイタナ氏が殺害されてしまいます。
ポアロもゲームに参加していましたから、容疑者はもう一方のテーブルの4人以外には考えられません。が、彼ら全員にアリバイがあり警察はその先からまったく絞り込めません。
名探偵の目と鼻の先で起こった大胆な犯行。犯人からの挑戦とも思えるこの事件に、ポアロが真っ先にとった行動は容疑者全員のブリッジのスコアシートを調べることでした。パーティーに同席し、捜査の指揮にあたっていたバルト警視に対してポワロはこう嘯きます
『これらはなかなかの暗示だよ。この事件で、何が必要だと思います?性格への手がかりですよ。それも一人だけじゃなくて、四人の人全部の性格を知ることができるのです。』
このスコアシートや証言などによりポワロは容疑者達がゲームでとった戦略や戦術などのプレイスタイルと犯罪の手口を詳細に検討し犯人に迫っていきます。