技術の進化よりも、アイデアの新化! |
テレビゲームにせよ映画にせよ、あらゆる映像娯楽はこれまでコンピュータグラフィックス(CG)など「技術」の革新によって進化してきた面があります。『ファイナルファンタジー7』(PS/97年)のかつてない美麗な3D表現に心を躍らせ、『ジュラシックパーク』(93年)のあまりにリアルに描かれた恐竜たちの映像には思わず自分の目を疑ったものです。
しかし、最近はそういった「技術」の面で驚かせてくれる作品が少なくなってきました。ゲームや映画でどんなに凄い映像を見せられても、「CGを使えば出来そうだよね」とかいう、ある意味では冷めた目で作品を見てしまうのです。
一方、そんな自分でも見事に驚かせてくれた作品があります。たとえば映画なら、『マトリックス』第一作(99年)。「あの華麗に宙を舞うカンフーアクション(※1)は、あの360度マシンガン撮影(※2)は、一体どうやって撮ったんだ!」と、単なるCGなどでは説明がつかない全く新しい映像の世界に圧倒されてしまいました。
そこでちょっと考えてみると、『マトリックス』大ヒットの要因は、実は「技術」の進化よりもむしろ「アイデア」の“新化”にあったのではないか、と思えてくるわけです。あのカンフーアクションも360度マシンガン撮影も、実際に使われている「技術」自体は既存のもので、それを全く新しい映像美へと昇華してみせたのは、かつてない斬新な「アイデア」だったのではないか、と。
ここに、映像娯楽のさらなる発展へのカギがあるのではないか、と思い知らされます。
(※1)「華麗に宙を舞うカンフーアクション」=それまでのハリウッド式スタントで使われていたクレーンやピストンのような装置では実現不可能だった、非常に様式化された空中でのカンフー・スタントは、カンフーとワイヤースタントの両分野に精通する香港の振付師ユアン・ウー・ピンによって生み出されたもの。その華麗なアクションもさることながら、それをCG処理などに頼らずにキアヌ・リーブスたちキャスト本人が実際に演じていることも衝撃的でした。 |
(※2)「360度マシンガン撮影」=正式名称は「ブレット・タイム」技法。俳優のアクションはほとんど静止していながら、その周囲をカメラが360度ぐるりと移動するというかつてない映像効果は、俳優の周囲に120台のスチルカメラを並べて“マシンガンのように”高速のシャッタースピードで撮影されたフィルムをつなげて映像化したもの。なお、ブレットタイム効果が使用されるシーンの背景はすべてCGなどのVFXによって描かれている。 |
テレビゲームでも、目の肥えているユーザーに斬新な遊びの世界を提案してくれた『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』(GC/03年)という作品があります。
2003年度文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞した『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』ですが、やはりハードウェア的な「技術」自体は既存のものを活用しています(ゲームキューブとゲームボーイアドバンスが「つながる」こと自体は決して目新しい技術ではありませんし、そもそもテレビゲームというのは映画と違って“家庭でリアルタイムに生まれる映像娯楽”であるがゆえに、どうしても今あるゲーム機のスペックの限界を超えることはできないわけです)。
『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』は、ゲームキューブとつないだゲームボーイアドバンスをコントローラとして全く新しい方法(※3)で使用することで、「RPGは一人で遊ぶもの」という概念を打ち破る、かつてないリアルコミュニケーション型RPG(※4)を見事に実現しているのです。
(※3)「コントローラとして全く新しい方法」=複数同時プレイが可能な『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』(下写真)では、ゲームキューブとつないだ各プレイヤーのゲームボーイアドバンスの画面に、各自の能力や所持アイテムなどの情報が表示されます。 |
(※4)「リアルコミュニケーション型RPG」=自分のゲームボーイアドバンスに表示された情報は、他のプレイヤーには見ることができません。複数同時プレイ時は、「敵にやられた! 誰か回復魔法をかけてくれ!」「道に迷った! この洞窟の地図を持ってる奴、ナビゲートしてくれ!」などなど、他のプレイヤーとの“実際の”コミュニケーションが、冒険を進めるカギとなるのです。 |
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「アイデア」勝負の時代が来る! |
ファミコンの発売から20年が経った今、なぜ再びファミコンが注目されているのか。自分には、ファミコン時代からゲーム機の性能が飛躍的に向上した今のゲーム業界が、ある意味ではファミコン時代と同じ状況に置かれていると思えてならないのです。
ハードの性能に厳しい制約のあったファミコン時代、ライバルメーカーとの差別化を図ろうと、アイデア勝負の斬新な作品(※5)がたくさん生み出されました。そして今のゲーム業界は、リアルな映像や音声といった「技術」面での進化がもはや飽和状態にあるがゆえ、再びファミコン時代と同様に「技術」面での差別化が難しくなっているのです。
今でも根強い「ファミコン」人気の根底にあるのは、単なる懐かしさだけではないのかもしれません。「たとえ古くても、本当に面白いものはいつの時代でも面白いんだ!」という、娯楽産業の現状への一種の警鐘とも受け取れるのです。
あの頃のような、純粋なアイデア勝負の時代が来る・・・いや、ぜひ来てほしい!
(※5)「アイデア勝負の斬新な作品」=たとえば『ファミリーコンピュータ・ロボット』(下写真)のような、既存のテレビゲームの概念を打ち破る作品もどんどん生まれてほしいものです。『太鼓の達人』(PS2)が大ヒットした理由も、実はここにあるのではないかと。そもそもファミコン時代は、今とは違って「テレビゲームとはこういうものだ」という既存の概念そのものが無かったわけですから、今よりもずっと斬新な作品が生まれやすい環境だったのかもしれません。 |
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<目次> |
◆なぜ今、「ファミコン」なのか 生産中止になっても、ファミコンの歴史はまだまだ続く! |
◆「ファミコン」が愛される理由とは ゲーム作りで大切なのは、技術の「進化」よりもアイデアの「新化」! |
◆名作ファミコンソフトの復刻版「ファミコンミニ」 昔のユーザーには懐かしく、今のユーザーには逆に新鮮! |
◆読者の「ファミコンの思い出」&「最近のゲームに思うこと」 読者の皆様からのご意見&「ファミコンミニ」アンケート結果発表! |